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変身
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「お母さん…なんとかならないの?」
「なんとかって…何が?」
「何って、それよ、それ!」
「それって…これ…?」
お母さんは、持っていたシャツに視線を落とした。
「それだけじゃなくて、全部よ!
今、そこに出した服、全部!」
ちっともわかってないお母さんに、私は苛々してしまった。
「お父さんの服がどうかしたの?」
お母さんは落ち着き払ったまま、衣替えの手を止めない。
「お母さん…本当になんとも思わないの?
それ…『お父さん』の服っていうより、『おじいちゃん』の服だよ。
色も地味だし、形もじじくさい…」
「仕方ないわよ。お父さんはこういうのが好きなんだもの。」
お母さん…お父さんのこと、好きじゃないのかな?
同い年なのに、いつもお父さんはお母さんより年上に見られて、こないだなんて、親子に間違えられたって、お母さんは面白そうに笑ってた…
「藤岡フミヤや山下弘樹を見てよ。
お父さんと同じくらいの年なのに、あんなに若々しくてカッコいいよ。」
「芸能人と普通の人は違うわよ。」
「そりゃあそうだけど、お父さんだって服装を変えればもっと若く見えて、格好良くなるに違いない!」
「そうかしら?」
「そうだよ、お父さん、太ってないし、ハゲてもないんだから、絶対格好良くなるってば!」
「そうかしらねぇ…」
私の意見をまともに聞こうとしないお母さんに、私はますます苛々して来てその場を離れた。
私は部屋に戻って、ごろんとベッドに横になった。
お母さんは本当にわかってない。
お父さんがおじいちゃんみたいだってことは、私にとってけっこう重要なことなのに。
もっと格好良いお父さんだったら、一緒に遊びにも行けるけど、今のお父さんとは絶対に一緒に出掛けたくないもん。
(あ、そうだ!)
私は急に思いついたアイディアに、思わず体を起こした。
*
「お父さん、これ、プレゼント!」
「えっ!あ、ありがとう、夏美…」
父の日…私は、貯金をはたいてお父さんに格好良い服をプレゼントした。
ちょいワル親父のコーディネートを研究して、お財布と相談しながら、悩みに悩んで買った全身コーデだ。
お父さんは、袋の中をのぞいてる。
「お父さん、今、着てみてよ!」
「えっ!?」
「お願い!」
お父さんは、袋を持って今を出て行った。
「……どうかな?」
しばらくして戻って来たお父さんに、私は目を逸らしたくなった。
似合わないにも程がある。
多分…七三分けの髪型のせいだ。
「あらあら…」
お母さんが、お父さんの髪をラフにほぐす。
そして、一番上まで留めたシャツのボタンをはずし、そでとパンツの裾を少しまくって…
「お父さん!すっごく似合ってるよ!」
それはお世辞でも何でもなかった。
さっきの変なのが嘘みたい。
お母さんがほんの少し手を加えただけで、私の理想のお父さんにすっごく近付いた。
お母さんって、センス良いんだな…
「わ…」
姿見をのぞいたお父さんは、目を丸くしている。
そして、まんざらでもない笑顔を浮かべた。
これがきっかけで、格好良いお父さんに変わってくれるかと思ったけれど…
次の日には、いつものおじいちゃんみたいなお父さんに戻ってた。
「ね?だから言ったでしょ?
お父さんは、地味なのが好きなのよ。」
せっかく頑張ったのに…!
もう来年の父の日からはプレゼントはあげない!
「なんとかって…何が?」
「何って、それよ、それ!」
「それって…これ…?」
お母さんは、持っていたシャツに視線を落とした。
「それだけじゃなくて、全部よ!
今、そこに出した服、全部!」
ちっともわかってないお母さんに、私は苛々してしまった。
「お父さんの服がどうかしたの?」
お母さんは落ち着き払ったまま、衣替えの手を止めない。
「お母さん…本当になんとも思わないの?
それ…『お父さん』の服っていうより、『おじいちゃん』の服だよ。
色も地味だし、形もじじくさい…」
「仕方ないわよ。お父さんはこういうのが好きなんだもの。」
お母さん…お父さんのこと、好きじゃないのかな?
同い年なのに、いつもお父さんはお母さんより年上に見られて、こないだなんて、親子に間違えられたって、お母さんは面白そうに笑ってた…
「藤岡フミヤや山下弘樹を見てよ。
お父さんと同じくらいの年なのに、あんなに若々しくてカッコいいよ。」
「芸能人と普通の人は違うわよ。」
「そりゃあそうだけど、お父さんだって服装を変えればもっと若く見えて、格好良くなるに違いない!」
「そうかしら?」
「そうだよ、お父さん、太ってないし、ハゲてもないんだから、絶対格好良くなるってば!」
「そうかしらねぇ…」
私の意見をまともに聞こうとしないお母さんに、私はますます苛々して来てその場を離れた。
私は部屋に戻って、ごろんとベッドに横になった。
お母さんは本当にわかってない。
お父さんがおじいちゃんみたいだってことは、私にとってけっこう重要なことなのに。
もっと格好良いお父さんだったら、一緒に遊びにも行けるけど、今のお父さんとは絶対に一緒に出掛けたくないもん。
(あ、そうだ!)
私は急に思いついたアイディアに、思わず体を起こした。
*
「お父さん、これ、プレゼント!」
「えっ!あ、ありがとう、夏美…」
父の日…私は、貯金をはたいてお父さんに格好良い服をプレゼントした。
ちょいワル親父のコーディネートを研究して、お財布と相談しながら、悩みに悩んで買った全身コーデだ。
お父さんは、袋の中をのぞいてる。
「お父さん、今、着てみてよ!」
「えっ!?」
「お願い!」
お父さんは、袋を持って今を出て行った。
「……どうかな?」
しばらくして戻って来たお父さんに、私は目を逸らしたくなった。
似合わないにも程がある。
多分…七三分けの髪型のせいだ。
「あらあら…」
お母さんが、お父さんの髪をラフにほぐす。
そして、一番上まで留めたシャツのボタンをはずし、そでとパンツの裾を少しまくって…
「お父さん!すっごく似合ってるよ!」
それはお世辞でも何でもなかった。
さっきの変なのが嘘みたい。
お母さんがほんの少し手を加えただけで、私の理想のお父さんにすっごく近付いた。
お母さんって、センス良いんだな…
「わ…」
姿見をのぞいたお父さんは、目を丸くしている。
そして、まんざらでもない笑顔を浮かべた。
これがきっかけで、格好良いお父さんに変わってくれるかと思ったけれど…
次の日には、いつものおじいちゃんみたいなお父さんに戻ってた。
「ね?だから言ったでしょ?
お父さんは、地味なのが好きなのよ。」
せっかく頑張ったのに…!
もう来年の父の日からはプレゼントはあげない!
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