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笑顔

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「お母ちゃん、洗濯もの取って来たよ。」

 「ありがとうね。」

 私は、茶碗洗いを手早く済ませ、洗濯ものを畳もうと部屋へ戻った。



 「あ…あんた達…」

 娘の祥と、息子の淳が、おぼつかない手つきで洗濯ものを畳んでいた。



 今日、子供たちがこんな風に積極的にお手伝いをしてくれるわけを私は知っている。



そう…今日は氷の朔日…
子供達は、凍み餅が食べられると楽しみにしているのだ。



とても気分が重くなった。



 今年のお正月は、お雑煮に使う分しかおもちが買えなかった。
だから、当然、凍み餅も作ってない。



とても言いにくい…
ふだんから、おやつはなかなか食べさせてあげられない。
だからこそ、子供たちが今日の凍み餅をどれほど楽しみにしているかもよくわかる。
なのに、その凍み餅さえ食べさせてあげられないことが、とても情けなかった。



 「あのね…祥…淳…」

 「なぁに?」

 私をじっと見るふたりに、次の言葉が詰まってしまった。



 「あのね…実はね…」



 「こんばんは!」



ちょうど、その時、玄関先で声がした。



 「はい。」

 出てみると、それは工場の同僚の吉岡さんだった。



 「吉岡さん…どうかされたんですか?」

 「あ、あぁ…今年は母が凍み餅を作りすぎてね。
とても食べきれないから、持って来たんだ。
つまらないものだけど、良かったら食べてくれないかな。」

 「えっ!あ、ありがとうございます。」

 包みはずっしりと重かった。



 「じゃあ、また、明日ね。」

 「あ、吉岡さん…お茶でも…」

 「いや、家で母さんが待ってるから。」

 吉岡さんは、手を振り、そそくさと去って行かれた。



うちが貧しいことを知っていて持ってきて下さったのかどうかはわからないけど、そんなことはかまわない。
私の気持ちは、いただいた凍み餅のおかげで一気に晴れた。



 私は、凍み餅をあげる準備に取り掛かった。
 子供達の喜ぶ顔を思い浮かべながら…

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