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風になる

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「公平、どうだ?
 風が気持ち良いだろう?」

 僕の小さな声は、バイクの走行音にかき消された。



だけど、確かに気持ちが良い。
バイクに乗る人達の気持ちが少しわかったような気がした。



 読書や映画や音楽が好きなインドア派な僕が、こんな風にバイクに乗るなんて、考えてもみなかった。
 僕が、バイクの免許を取ると言った時は晶子もすごく驚いていた。



でも…どうしても僕はバイクに乗りたかったんだ。
 僕が公平にしてやれることは、それしかないと思ったから。



 『バイトしてこれ買うんだ!』



 公平は嬉しそうにそう言って、バイクの雑誌を見せてくれた。
 公平は元気で…何の問題もなく…
だから、当然、その夢は近いうちに叶えられると思ってた。



なのに、公平はその夢を叶える前に星になってしまった。
 何の前触れもなく…急な病で…



一人息子の急死…
僕も晶子も、もう人生が終わったような気分を感じていた。
 泣いて…喧嘩して…



僕が、公平の代わりにあいつの夢を叶えようと思い付くまでに三年の時間がかかった。



そして、僕はバイクの免許を取り、あいつが買うつもりだったバイクを買い…
ようやく、あいつの夢を叶えることが出来た。



 「公平…どうだ?楽しかったか?」

スマホの中の公平の笑顔に、僕は話しかけた。



ただの自己満足なのかもしれない。
だけど、今の僕にはこんなことしか出来ないから…



そよ風が僕の頬を優しく撫でて行く…



『父さん、ありがとう…』



そんなあいつの声が、ふと聞こえたような気がした。

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