1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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故郷の味

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(くぅ~~…)



 何度思い出しても心がえぐられる。



 小花柄の振袖に、紫の袴姿の先輩は、めっちゃ綺麗やった。
まるでお人形さんみたいや。
 先輩は俺には手の届かへん人やていうのは最初からわかってたし、告白はせぇへんつもりやったけど…
今日の袴姿があまりに可愛かったから、ついゆうてしもたんや。
そしたら、返って来たんは「ごめんなさい。」のひとこと。
しかも、東京弁やから、ものごっついきつい感じに聞こえたんや。



 「あんた、誰に告ってんの?
あんたと私が釣り合うわけないやろ。
そんなんもわからへんの?あほちゃう?」



と、でも言われたような感じやった。
サークルで知り合って一目惚れして…
それから二年間密かに思い続けていた俺の恋は、あっけなく玉砕や。



 重い足をひきずって、俺は家に戻った。
 今夜は、やけ酒でも飲もかな…って、俺、酒にはめちゃめちゃ弱いんやけど…



その時、玄関のチャイムが鳴った。



 「はい~!」



 来たんは宅配便のおっちゃんやった。
 差出人はおかんや。
 何送ってくれたんやろ?送られて来た小さめの段ボールを開けてみた。



 「わっ!」



いかなごのくぎ煮や!
 今年はいかなごが高いから炊けへんてゆうてたのに、やっぱり買うたんやな!



 俺は早速ごはんをよそた。
 送られて来たいかなごで、ごはんを食べる。



 (うまぁ……)



やっぱし、俺…卒業したら神戸に帰ろ。
東京に憧れて来てみたもんの…やっぱり、こっちにはいまいち馴染めん。
いや、なにも先輩に振られたからとちゃうで。
って…確かにそれもあるけどな。
なにより、こっちにはくぎ煮ないし。



 (それにしても、ほんま、うまいわ。
おかん、くぎ煮の天才やな。)



くぎ煮のおかげで、ちょっとだけ元気が出た。



 (ありがとうな、おかん…)

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