1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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ある日、我が家のポストに届いたもの… 
それは、青と赤の模様で縁取られた外国からのエアメールだった。
 差出人の名前はない。
 外国に知りあいなんていない。
それに私は日本語しかわからないのに、どうしよう…?

 私は、はさみで封を切った。 
 中に入っていたのは文字が透ける程、薄い便箋だった。
 幸いにもそれは日本語で書かれていた。 
 一目で男性のものだとわかる、雑で逞しい文字だった。 



 (なんてこと…)



 読み進めるうちに、私の鼓動は速くなった。
そこにはそうなるだけの内容が書いてあったのだ。 



それは詫び状だった。 
 手紙には、自分は十年前に発生した銀行強盗の犯人だと書いてあった。 



 私の父は、無実の罪で逮捕された。 
 銀行強盗犯だと間違えられたのだ。 
 八年も経ってから、証拠不十分で父は釈放された。 
だが、父は八年の刑務所暮らしで、心身ともに弱っていた。 
それは私や母も同じことだった。 
 強盗犯の家族ということで、心無い人達から酷い嫌がらせを受け、私達は故郷を離れ、知らない土地に移り住んだ。 
 私は、子供の頃からの夢だったバスガールを諦め、小さな工場で働いた。
 私達には夢なんて持つ余裕はなかったのだ。 
 父のことがバレないように、息を潜め、極力目立たないように暮らした。
 父が戻って来てからも二度程、引っ越しをした。 
 釈放されても、まだ父のことを疑う人がほとんどだった。 
 私達には気の休まる時等なかった。 



 父は、釈放されて一年程で病に倒れ、帰らぬ人となり、母もそれを追うかのようにひっそりと死んだ。 



 私には家族はいなくなり、天涯孤独の身となった。 
それはすべてこのエアメールを寄越した真犯人のせいだ。 



 真犯人は海外にいるようだけど、なぜだか両親が死んだことも知っていた。 
そして、お詫びの印を準備したからと、ある住所が書いてあった。 
その家の玄関にお詫びの品を置いたというのだ。
どうしようかと数日悩んだものの、やはり気になり、私はその場所に向かった。 
それは、片田舎の古びた家だった。 
 手紙に書いてあった場所から鍵がみつかった。
 恐る恐る扉を開き、玄関に入るとダンボール箱があった。 



 「あっ!」



その中には束になった百円札がいくつも入っていた。 



これとエアメールを警察に持っていけば、真犯人の手がかりになるかもしれない。



だけど、そうするとこの大金は手には入らない。 
 父は銀行強盗の濡れ衣を着せられ、警察からも世間からも酷い目にあったのだ。
 私や母もそのせいで辛い想いばかりしていた。 



そう…私はこれを受け取っても良いはずだ。
あんなに辛い想いをしたのだから。 



このお金で両親に墓を立て、小さな家を建てて… 



私はバスガールになろう。 
 今こそ、子供の頃からの夢を叶えるのだ。



 私のやろうとしていることは間違ってるかもしれない。
だけど…もう縮こまって生きるのはごめんだ。



ハイカラな制服を着て、バスに乗り…



私は夢を叶えるのだ…

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