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雪だるま

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(あぁ…疲れた……)



 当たり前だ。
こんな寒い時期に、こんな険しい道を歩いて山頂を目指す者なんて、よほどの物好きしかいない。
あたりも吐く息も真っ白だ。



 実際に上ってみるまで、こんなに時間がかかって大変だとは知らなかった。
でも良いんだ。
 僕は、ただ上りたかっただけだから…
君のいる場所に少しでも近付きたかっただけだから…
帰りの心配はいらない。



 君は僕のことを情けない男だと笑うかもしれない。
だけど、仕方がない。
 本当にその通りなんだから。
 君がいなくなって一年経ったっていうのに、僕はまだ君の死を受け入れられない。
それどころか、最近は仕事さえ手につかずにやめてしまったくらいだ。



これからのことが何も考えられない。
やはり、だめなんだ。
 君がいないこの世界では、僕は生きられそうにない。



 頂上に向かう道に人影はなかった。
さっきから降り続いていた雪が、強い風に煽られ、僕を押し戻そうとする。
 僕は、それに逆らいながら、頂上を目指した。



 (あれは……)



 吹雪の中になにかがいた。



 雪だるまだ…それを見た僕は、胸がいっぱいになり、こみ上げる涙を懸命にこらえた。



 昨年も寒い冬だった。
 早起きをした君は、庭の雪を集めて雪だるまを作った。
 「見て、見て!上手に出来たでしょう?」って、子供みたいにはしゃいで、君はその雪だるまと並んで写真を撮った。



それが最期の一枚となった。



 「紗季……」



 雪だるまに近付いた時、不意に雪がやみ、空が明るくなった。
 鉛色の空の隙間から、青い空がどんどん広がっていく…



涙が止まらなかった。



 紗季は今でも僕の傍にいて、僕を見守ってくれているんだって…
そう思えた。



 「わかったよ、紗季…僕、もう少し頑張ってみるから…」



 強がって言った僕の言葉に、雪だるまが少し笑ったような気がした。



 ~fin. 
 
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