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『瓢箪から駒』ってやつでしょうか?

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「……んぅ…………」

 目を開けると、殺伐とした地獄の光景が広がった。
 殺風景な小部屋から一転、そのギャップは……「妖艶な美人教祖様には少し及ばないね」と、漏らす程度のモノだった。

――赤い溶岩で照らされた岩肌と、まだらな影に埋め尽くされた、殺伐としたボクのおもちゃ箱の世界だ。

 状況確認が終わったところで、トリップの直前、ボクが考えていたことを思い出す。

「ボクは……自分の孤独感でしゃにむにになってた。……何とか気を落ち着けて、天を仰いで、“もう泣かない”って約束して……え~と……そうだ!
 『彼』が悪行三昧をしていなかったのに何で非業の死を遂げちゃったのかって考えてた! そして、だろうけどって! そうしてあの部屋にご招待されたんだった!」

(……どれくらいあっちに居たのかわからないけど、そうだった!)

 若干の記憶の整理がついたところで、一応その経過をポケットから取り出したメモ帳に記載していく……。後でまとめたモノを壁面にガリガリ刻み込む予定なのだ。

「そもそも、ボクがお呼ばれした理由は……なんて言葉を口にしたからかもしれない……には要注意だね!」

 トリップ中に得たモノ。……美人教祖さんのあの魔女っ子ボイスで再生される“”というパワーワードが、いつまでも心にこだましていた。

「う~ん。ひょっとしたら『彼』は美人さんの誘いに屈して、宗教的な悪魔儀式か、宗教的な何かの悪事に手を染めたのかもしれないね。……悪行三昧……してないと言い切れなくなっちゃったかも……。『彼』の人生の結末をボクが覚えてたらよかったのに……思い出せないや」

――想定外の思考の着地点。あまりのハードランディングに、再び、周囲に燐光が溢れつつあった。

「う~ん。けど、それも違う気がするね。『彼』の半生でストックされた善行は、そんじょそこらの悪行三昧にも、枯れなかったはずだし。覚えてる範囲から逆算しても、大悪事に取り掛かる時間は到底足りない。
 『彼』も美人さんも、人生の時間が足りなかったはずだ。……あの美人さん、あの時確か50歳過ぎてたはずだし。『彼』も確か……。
 だからボクの短命は、前世の報いなわけが無いね。やっぱりそれは自信をもって言える」

――立ち上る白い光は、やや不満げに揺れ、そっと足元に還っていった。


 『彼』は人を笑顔にする――そんなステキなお仕事をしていた。
 断片的に思い出せるいずれの場面も、笑顔であふれていた。

 若かりし日の『彼』は、病気の人たちを笑顔にするため、あっちこっちの病院に通っていた。それを誰かに揶揄われると、照れ隠しで、しどろもどろに理由をこじつけてごまかしていた。
 けど、あれは『彼』の純粋な想いからくる行動だった。

(……同一人物だったボクだからわかる。『彼』の想いは大人になっても陰ってなかった。老後に何かあったとしても、魔が差した程度の、お茶目さん程度だ、たぶん)

 そして、そんな『彼』の後だから、ボクの短命は因果応報とは少し違うはず。
 彼の善行は、後年の過ちで消える程、生易しくなかった。

「う~ん。ひょっとしたら前々世以前のボクが何かしたのかもしれないけど……」

 この考えは、即時却下である。
 この時のボクには気づけなかったが、見えない誰かの助力もあり、「ボクの人生に意味があったんだか無かったんだか」論争は、「やっぱりたまたま」ってところに修正された。――細心の注意を払われて、安定着陸に成功したのだった。

 そして――

「――生んでくれた両親には、悲しみを昇華させて何かを成して欲しいね!」

 顔も見たこともない両親に思いを馳せた。

(それがボクが生を受けた意味だと思います)なんて言葉は野暮だと思って吞み込んだ。

――大洞窟の天井が、一瞬だけ青く透き通ってみえたから、落ち込みかけた気分はそのまま“ぽ~~~い”っと空の彼方に投げ捨ててやった。
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