上 下
56 / 59

56

しおりを挟む
「わぁ!」



遼が案内してくれた場所はまさに徒歩10分くらい。
いつも通らない道だから、全然気付かなかった。
遼の実家には負けるけど、それなりの豪邸だ。
もちろん庭もある。
二世帯住宅になっていて、1階と2階に玄関があった。
お母さんの寝室には大きなベッドがあり、お母さんは、それを見て顔をほころばせていた。



「お母様、どうかお願いです。雅美さんとの結婚を許して下さい。」

「え、でも、そちら様のご両親は反対されているのでは?」

「いいえ、二人共、許してくれました。」

「だめだよ、私、手切れ金をもらってしまったし、少し遣ってしまったから。」

「それは、三年待たせたことへの慰謝料だよ。」

「でも......」

「問題はもう何も無いよ。
僕は大阪支社に配属されたし、君も働きたいならそのまま仕事を続ければ良いし、やめても構わない。」

そこまで言われたら、私にはもう何も言うことは無い。
お母さんに目を向けたら、ゆっくりと頷いた。
お母さんもきっと私と同じような気持ちなんだろう。



「私は、雅美の意志に任せます。」

「お母様、どうもありがとうございます。
雅美......」

遼が私をじっとみつめる。
私はただ黙って頷いた。



「ありがとう!雅美!」

遼は、私の体を強く抱き締めた。
しおりを挟む

処理中です...