263 / 291
闇払う陽の標
2
しおりを挟む
トレルは半ば溺れかけているというのに、健気に私の言うことに従いついて来た。
その時、湖底の岩にでも蹴つまずいたのか、彼の小さな身体はバランスを崩し、水の中へ倒れこんだ。
トレルは必死になって手足を動かしもがいている。
その目は、まっすぐに私に向けられていたが、彼は決して助けてくれとは言わなかった。
やがて、激しい水音がだんだんと小さくなり…
もう少しだ…
心配することはない…すぐに楽になる…
その時、おもむろに彼の顔が水面に現れ、言葉を発した。
「助けて…」と
いや、あれは声ではなかったかもしれない。
ただ唇がそう動いただけ…
でも、その言葉は私にははっきりと届いた。
きっと最後の力を振り絞ったのだったのだろう…
その言葉を最後に、彼の小さな身体は再び、湖の中へ沈みこんでいく…
ゆっくり…ゆっくりと…
なぜだかはわからない…
自分でもわからないうちに私はその場へ行き、湖の中に揺らめく小さな身体を引き揚げた。
彼の魂は彼の身体を離れてはいたが、しかし、まだ身体のすぐ近くにいた。
私は彼の耳もとでそっとつぶやいた…
「トレル…聞こえるかい…
あんたがもしまだ生きていたいのなら、助けてあげる…
だけど、あんたが死ぬ時、この魂を私がもらう…
それで良いかい?
それで良いなら、助けてあげるよ…」
しばらくしてから、トレルの声が私の頭の中に響いた…
「助けて…僕…生きたい…」
「……そうかい、わかったよ…」
私はトレルの身体の周りで行き場を決めかねてうろうろしていた魂を彼の身体に戻してやった。
「うっ!」
ぱっちりと目を開けたトレルは、苦しそうに咳き込み、水を吐いた。
しばらくすると、何もせず冷ややかな目でただ彼をみつめていた私に向かって彼は言った…
「ありがとう…」
小さな瞳には涙がきらきらと光っていた。
自分を死に誘った私に、ありがとう…とは…
私は笑いがこみあげ、声をあげて笑った。
それと同時にこの子供がとても愛しく感じられた。
その時、湖底の岩にでも蹴つまずいたのか、彼の小さな身体はバランスを崩し、水の中へ倒れこんだ。
トレルは必死になって手足を動かしもがいている。
その目は、まっすぐに私に向けられていたが、彼は決して助けてくれとは言わなかった。
やがて、激しい水音がだんだんと小さくなり…
もう少しだ…
心配することはない…すぐに楽になる…
その時、おもむろに彼の顔が水面に現れ、言葉を発した。
「助けて…」と
いや、あれは声ではなかったかもしれない。
ただ唇がそう動いただけ…
でも、その言葉は私にははっきりと届いた。
きっと最後の力を振り絞ったのだったのだろう…
その言葉を最後に、彼の小さな身体は再び、湖の中へ沈みこんでいく…
ゆっくり…ゆっくりと…
なぜだかはわからない…
自分でもわからないうちに私はその場へ行き、湖の中に揺らめく小さな身体を引き揚げた。
彼の魂は彼の身体を離れてはいたが、しかし、まだ身体のすぐ近くにいた。
私は彼の耳もとでそっとつぶやいた…
「トレル…聞こえるかい…
あんたがもしまだ生きていたいのなら、助けてあげる…
だけど、あんたが死ぬ時、この魂を私がもらう…
それで良いかい?
それで良いなら、助けてあげるよ…」
しばらくしてから、トレルの声が私の頭の中に響いた…
「助けて…僕…生きたい…」
「……そうかい、わかったよ…」
私はトレルの身体の周りで行き場を決めかねてうろうろしていた魂を彼の身体に戻してやった。
「うっ!」
ぱっちりと目を開けたトレルは、苦しそうに咳き込み、水を吐いた。
しばらくすると、何もせず冷ややかな目でただ彼をみつめていた私に向かって彼は言った…
「ありがとう…」
小さな瞳には涙がきらきらと光っていた。
自分を死に誘った私に、ありがとう…とは…
私は笑いがこみあげ、声をあげて笑った。
それと同時にこの子供がとても愛しく感じられた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
物理少年は争いを好まない
東雲まくら
ファンタジー
性格拗らせてる系の主人公、加賀宮 健吾は、悪魔と契約し、この世成らざる者達との争いに巻き込まれていくのだが・・・といったメインストーリー。
魔法少女、エクソシスト、陰陽師・・・etc、といった、立場、呼び方に違いはあれど、各々がこの世の成らざる存在と対峙しており、彼らと真理学研究部を通して協力することにッ!?
普通ではない部活と仲間と共に、普通ではない生活を送る事になった主人公が、争いを好まない為に、周囲を振り回しながらも、己にかせられた運命なんかに立ち向かっていく・・・みたいな、話になる予定です。
また、高校生活での何気ない日常&甘酸っぱい青春を描いていく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる