190 / 291
scene 10
16
しおりを挟む
*
(………!!)
(………夢か……)
トレルが目を覚ましたのは、粗末なベッドの上だった。
(……しかし、ここは…)
目の見えない自分が薪割り等出来るはずはなく、そんな自分を雇ってくれる者もいるはずはない…
あの日…アズラエルと別れてからしばらく歩いた頃、インギーの耳にかすかに人の話し声が聞こえて来た。
インギーは、あわててランディ達の住む村の名前を書き、その者たちに手渡した。
「なんだ、おまえ、サーリックの村に行きたいのか?」
インギーは何度も頷いた。
「サーリックまでは遠いぞ…その足じゃ相当かかるだろう。
馬車でもつかまえないとなぁ…
……ところで、おまえ、金は持ってるのか?」
インギーが袋の中から銀貨を差し出した途端、男達はその金をひったくった上にインギーを激しく殴りつけ走り去ってしまったのだ。
やっとのことで立ち上がり、インギーはよろよろとおぼつかない足取りで歩き出した。
自分が今どこを歩いているのかもわからない。
金も失ってしまった…
アズラエルにもらった杖を頼りに、足をひきずりながらどうにか町に辿りついた。
しかし、金も持たない身体の不自由なインギーに世間の風は冷たかった。
話を聞いてくれる者さえいない。
空腹を感じても、インギーにはそれをどうすることも出来ない。
せめて水が飲みたいと思い、インギーは地面に「水」と書いた。
しばらくすると、いきなり冷たい水を浴びせられ、数人の若者が笑っているのが聞こえた。
インギーはずぶ濡れの身体のまま、その場に座りこむしかなかった。
それからどのくらい経ったのだろう…
インギーの身体が芯から冷えた頃、インギーはまた歩き出した。
人の話し声を頼りに近付くと「サーリック」と書いた紙を見せた。
しかし、まるで薄汚い野良犬のように冷たく扱われ、突き飛ばされることも何度もあった。
それでもインギーは諦めなかった。
何度も何度も同じことを繰り返した。
ちゃんと話を聞いてくれる者はめったにいなかったが、それでも皆無というわけではなかった。
中には食べるものを与えてくれる者や、腕をひいて近くの村まで連れて行ってくれる者もいるにはいた。
しかし、それはあくまでも稀なこと。
物乞いのような生活を続けてなんとか生き延びてきたが、それももう限界かもしれない。
インギーの身体はすでに衰弱しきっていた。
(………!!)
(………夢か……)
トレルが目を覚ましたのは、粗末なベッドの上だった。
(……しかし、ここは…)
目の見えない自分が薪割り等出来るはずはなく、そんな自分を雇ってくれる者もいるはずはない…
あの日…アズラエルと別れてからしばらく歩いた頃、インギーの耳にかすかに人の話し声が聞こえて来た。
インギーは、あわててランディ達の住む村の名前を書き、その者たちに手渡した。
「なんだ、おまえ、サーリックの村に行きたいのか?」
インギーは何度も頷いた。
「サーリックまでは遠いぞ…その足じゃ相当かかるだろう。
馬車でもつかまえないとなぁ…
……ところで、おまえ、金は持ってるのか?」
インギーが袋の中から銀貨を差し出した途端、男達はその金をひったくった上にインギーを激しく殴りつけ走り去ってしまったのだ。
やっとのことで立ち上がり、インギーはよろよろとおぼつかない足取りで歩き出した。
自分が今どこを歩いているのかもわからない。
金も失ってしまった…
アズラエルにもらった杖を頼りに、足をひきずりながらどうにか町に辿りついた。
しかし、金も持たない身体の不自由なインギーに世間の風は冷たかった。
話を聞いてくれる者さえいない。
空腹を感じても、インギーにはそれをどうすることも出来ない。
せめて水が飲みたいと思い、インギーは地面に「水」と書いた。
しばらくすると、いきなり冷たい水を浴びせられ、数人の若者が笑っているのが聞こえた。
インギーはずぶ濡れの身体のまま、その場に座りこむしかなかった。
それからどのくらい経ったのだろう…
インギーの身体が芯から冷えた頃、インギーはまた歩き出した。
人の話し声を頼りに近付くと「サーリック」と書いた紙を見せた。
しかし、まるで薄汚い野良犬のように冷たく扱われ、突き飛ばされることも何度もあった。
それでもインギーは諦めなかった。
何度も何度も同じことを繰り返した。
ちゃんと話を聞いてくれる者はめったにいなかったが、それでも皆無というわけではなかった。
中には食べるものを与えてくれる者や、腕をひいて近くの村まで連れて行ってくれる者もいるにはいた。
しかし、それはあくまでも稀なこと。
物乞いのような生活を続けてなんとか生き延びてきたが、それももう限界かもしれない。
インギーの身体はすでに衰弱しきっていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
おてんば末っ子令嬢、実は前世若頭だった!? 〜皆で領地を守ります!〜
撫羽
ファンタジー
組長の息子で若頭だった俺が、なんてこったい! 目が覚めたら可愛い幼女になっていた! なんて無理ゲーだ!?
歴史だけ古いヤクザの組。既に組は看板を出しているだけの状況になっていて、組員達も家族のアシスタントやマネージメントをして極道なのに平和に暮らしていた。組長が欠かさないのは朝晩の愛犬の散歩だ。家族で話し合って、違う意味の事務所が必要じゃね? と、そろそろ組の看板を下ろそうかと相談していた矢先だった。そんな組を狙われたんだ。真っ正面から車が突っ込んできた。そこで俺の意識は途絶え、次に目覚めたらキラキラした髪の超可愛い幼女だった。
狙われて誘拐されたり、迫害されていた王子を保護したり、ドラゴンに押しかけられたり?
領地の特産品も開発し、家族に可愛がられている。
前世極道の若頭が転生すると、「いっけー!!」と魔法をぶっ放す様な勝気な令嬢の出来上がりだ! 辺境伯の末娘に転生した極道の若頭と、前世でも若頭付きだった姉弟の侍従や皆で辺境の領地を守るぜ!
ムカつく奴等にはカチコミかけるぜ!
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
魔法使いの幼馴染を助けたら俺も魔法使いになってしまった件について ~灰色の対極~
若椿 柳阿(わかつばき りゅうあ)
ファンタジー
突如として現れたトラックから幼馴染を庇ったら、なんやかんやで魔法使いになりました。……なんで?
第一部 ~あらすじ~
主人公の在原 環は、幼馴染である赤原 葵とのデート中に突如として現れたトラックに轢かれてその人生を終える……。と思いきや、幼馴染は魔法使い!?
紆余曲折あったものの、交通事故を経て魔法使いとなってしまった環、彼は新たな非現実的な世界を歩んでいくことになる。
※ほのぼのとかシリアスが入り乱れている現代魔法ファンタジーです。そのため、たまに温度差が激しい文章になったりします。楽しんでください←
※残酷描写ありですが、魔法発動の描写がアレなだけです。1-2を見たらだいたい分かると思います。
※この作品は自傷行為を推奨しているわけではありません。すべて自己責任でお願いします。
※使用している画像はちちぷいでのAI画像出力です。
TS転生した恋愛感情が分からないダンピール~ヒロイン不在の乙女ゲームの世界で私は魔王になんてならないしハーレムも逆ハーレムも勘弁して!~
琴葉悠
ファンタジー
志嶋司は28歳の会社員(女性)。
病弱だがなんとか良い会社に就職でき、体調がよいと会社に出社した日に心臓発作を起こして意識を失ってしまう。
そして、目覚めると自分がやっていたゲーム乙女ゲーム「朝と夜の狭間で~花嫁は誰と踊る~」のサブキャラのダンピールであり、魔王になるルートを持つ「アトリア・フォン・クロスレイン」として生誕していた。
半年間幸せ赤ん坊生活を満喫していたが、その直後ハンター達が押し寄せ吸血鬼である父が殺されるという事態に。
母に抱きかかえられて馬に乗って逃げ、ヴァンキッタ王国に逃げ込み保護される。
保護されるが苦難の人生がまっていた、唯一運が良かったのは転生の影響か読み書きや計算などは全く問題なかったこと。
そんな彼の元にある人物が訪れる。
ヴァンキッタ王国のクロスガード学園に入らないかとスカウトしてきた人物こそが──
父を殺したハンターだった。
これは復讐はしたいが魔王にはぜっっっっっっっったいになりたくないアトリアが乙女ゲームでやったはずの世界で何故かハーレムと逆ハーレム、男女六名に惚れられるというものである──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる