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scene 9

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トレルが意識を取り戻したのは、またあの痛みがつきまとう暗闇の世界だった。



「気が付いたか、インギー」

耳に水でも入っているような気持悪さはあったが、かろうじて声は聞こえた。



「……やっぱり、おまえにはこちらの方がお似合いのようだ。
なぁに、心配するな。
もうしばらくすれば、おまえは足をひきずりながらでも歩けるようになる。
そうなったらお別れだ。
おまえは、自分がいかに何もわかっていなかったかを学習する必要がある。
生きていることよりも、死んだ方がずっと幸せだということがある…
それをちゃんと学び、自分が間違っていたと、地べたに跪いて謝れば、また考えてやらないでもないがな。」

「そ、そんな、アズラエル様!
ワシはもうこんな身体に押し込められるのはいやですよ。
ルシファー様を裏切って、あなた様につくと誓ったのですから、それだけはお許し下さい。」

「なんだ、あんな短い時間でもう音をあげたのか?」

「違いますよ。
ワシは、こやつと違ってちゃんとわかってるからですよ。
生きてるよりも死んだ方が幸せだってことがあるってことをわかっているからです。」

「そうか…
では、しばらくの間、こいつの世話は頼んだぞ。
良いか、無茶なことはするなよ。
出来るだけ優しくしてやれ…」

「う…う、うう……」

インギーの喉からは、また言葉を発することは出来なくなっていた。



せっかくうまくいきかけたというのに、自らの強情さがそれをぶち壊してしまった…



(俺は馬鹿だ…
でも…俺は間違ったことをしたとは思わない。
必ず、また元に戻ってやる!
自分の力でな…!)



アズラエルの高笑いが聞こえた。
トレルの感情を読んだのか、それとも偶然のタイミングなのかはわからないが、あの地の底から響くような不気味な笑い声が、インギーの頭の中をぐるぐるとこだまする。







それから、二週間の時が過ぎた。



「ほら、これを使え。」

アズラエルはインギーに杖代わりの木の枝を渡した。

「それから、これは餞別だ。」

そう言いながら、アズラエルはインギーに幾枚かの銀貨を与えた。

「おまえの活躍を楽しみにしてるぞ。
そこまで付き添ってやろう。
良いか、ここをまっすぐに行けば町がある。
まずは、そこへ行ってみたらどうだ?
では、達者でな、インギー!」 
 
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