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scene 9

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(風に眠る炎を飲んだ辺りからか…)


ルシファーは木に凭(もた)れかかると、額を押さえてきつく目を瞑った。


形容しがたい痛みを堪えていると、胸に焼けるような痛みも走りだし、そのままズルズルと地面に座り込む。


(これだから人間の体は厄介なんだ)


悪魔本来の姿であれば、苦痛という感覚とも無縁でいられるのだが、この体は元々オルジェのもの。

彼を体から追い出してしまえば完全に自分の体になり、痛みから解放されるのであろうが、それは出来ない。


悪魔が転生する時のルールなのだ。


一度もルシファーが実体を失わずにいれば、フォーラスのように人間の魂を外に引きずり出して自分が中に入る事が出来る。

だが、以前彼は人の手によって己の肉体を失っていた。

その場合、寄生という形でしか体を手に入れる事ができない。

つまり母体に新たな生命が宿る状態で、その人間と体を共有するしか方法はないのだ。


しかし………。


なぜ自分の力を取り戻しただけなのに、こんなにも苦痛を伴うのか。

海に眠る雫の時には、こんな症状は現れなかったというのに。


(まさか、ランディのやつ。ニセ物を体に仕込んでいたんじゃないだろうな…)


その考えが頭を過ったが、それはないと首を横に振る。

手にした感覚は、紛れもなく本物…風に眠る炎そのものだった。


間違えるわけがない。


体の痛みが襲ってくるとともに、ルシファーは激しく咳き込む。

口端から僅かだが血が流れた。


「くそっ・・・」


こんな姿を誰にも見られるわけにはいかない。

特にフォーラスには。

アレは隙あらば、石を手に入れようと企んでいる。


(信じれるものなど、何もないんだ…)


それは今まで生き長らえてきた教訓―――。


フラフラと川辺に近づくと、彼は冷たい水で顔を洗い始めた。 
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