上 下
154 / 291
scene 9

しおりを挟む
(風に眠る炎を飲んだ辺りからか…)


ルシファーは木に凭(もた)れかかると、額を押さえてきつく目を瞑った。


形容しがたい痛みを堪えていると、胸に焼けるような痛みも走りだし、そのままズルズルと地面に座り込む。


(これだから人間の体は厄介なんだ)


悪魔本来の姿であれば、苦痛という感覚とも無縁でいられるのだが、この体は元々オルジェのもの。

彼を体から追い出してしまえば完全に自分の体になり、痛みから解放されるのであろうが、それは出来ない。


悪魔が転生する時のルールなのだ。


一度もルシファーが実体を失わずにいれば、フォーラスのように人間の魂を外に引きずり出して自分が中に入る事が出来る。

だが、以前彼は人の手によって己の肉体を失っていた。

その場合、寄生という形でしか体を手に入れる事ができない。

つまり母体に新たな生命が宿る状態で、その人間と体を共有するしか方法はないのだ。


しかし………。


なぜ自分の力を取り戻しただけなのに、こんなにも苦痛を伴うのか。

海に眠る雫の時には、こんな症状は現れなかったというのに。


(まさか、ランディのやつ。ニセ物を体に仕込んでいたんじゃないだろうな…)


その考えが頭を過ったが、それはないと首を横に振る。

手にした感覚は、紛れもなく本物…風に眠る炎そのものだった。


間違えるわけがない。


体の痛みが襲ってくるとともに、ルシファーは激しく咳き込む。

口端から僅かだが血が流れた。


「くそっ・・・」


こんな姿を誰にも見られるわけにはいかない。

特にフォーラスには。

アレは隙あらば、石を手に入れようと企んでいる。


(信じれるものなど、何もないんだ…)


それは今まで生き長らえてきた教訓―――。


フラフラと川辺に近づくと、彼は冷たい水で顔を洗い始めた。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

物理少年は争いを好まない

東雲まくら
ファンタジー
 性格拗らせてる系の主人公、加賀宮 健吾は、悪魔と契約し、この世成らざる者達との争いに巻き込まれていくのだが・・・といったメインストーリー。  魔法少女、エクソシスト、陰陽師・・・etc、といった、立場、呼び方に違いはあれど、各々がこの世の成らざる存在と対峙しており、彼らと真理学研究部を通して協力することにッ!?  普通ではない部活と仲間と共に、普通ではない生活を送る事になった主人公が、争いを好まない為に、周囲を振り回しながらも、己にかせられた運命なんかに立ち向かっていく・・・みたいな、話になる予定です。  また、高校生活での何気ない日常&甘酸っぱい青春を描いていく予定です。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

黒猫と12人の王

病床の翁
ファンタジー
神々の戦い『聖邪戦争』により邪神が封印されてから200年後の世界。 一流の殺し屋の青年は、オーガとの戦いにより負傷してしまい、逃げ込んだ先に封印されていた化け猫の猫又の封印を解いた事で化け猫に取り憑かれてしまって・・・。 “王化“により無事にオーガを撃退し、盗賊として生きていく事に。 しかし、そこに妖狐まで現れて・・・。 そんな中、封印された邪神の復活を目論む者が現れる。 神々は自身の神徒に“王化“の能力を与えた。 その力をもって邪神復活の儀を阻止せよとの神託を受けた王達は邪神復活を阻止する為の冒険に出る。 これは神より加護を得た12人の王と、それに巻き込まれた1人の青年の物語である。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

なぜか剣聖と呼ばれるようになってしまった見習い魔法使い異世界生活(習作1)

田中寿郎
ファンタジー
よくある異世界転生無双モノ?!と思いきや、呼ばれた主人公にはチートな能力一切なし?!呼んだ魔道師が悪かった。癖のない平凡な魂を平凡な肉体に入れる事しかできなかったと言うから仕方がない。 しかしそれじゃぁ可愛そうと、その魔道師がくれたのが「なんでも斬れる剣」だった。 それを振り回していた主人公、いつのまにか剣聖と呼ばれるように・・・? いや、道具の力であって剣は素人の見習い魔法使いなんですが?! ※カクヨムにも掲載されております。 ※以前書いた作品(処女作)のリバイバル投稿です。

【完結】戦う女神の愛し子! 最強少女が仲間と共に駆け上がる。冒険? それともただのファンタジー?

との
ファンタジー
優しい母に愛されて育った主人公のミリア。 7歳で母が亡くなってから、下級メイドとして過酷な生活に放り込まれた中で魔法と出会い、少しずつ成長していく主人公。 突然能力覚醒? いいえ、コツコツと努力を積み重ねて、気がついたら、 「あの、何でこんな事になってるんでしょうか?」 大男のノアと、うっかり(?)仲間にしてしまった2匹とパーティを組んで無双します。 『女神の愛し子よ。この世界に何を望む?』 (自由? 後は、友達かな) 常識を知らないちびっ子主人公と、おっさんが世界最強になるまでのお話。 「適当に見て回るよ。後でサイズ調整を頼む」  店主がケラケラと笑いながら、 「おう、気合入れてちっちゃくしてやるよ」 ーーーーーー 初めての冒険物です。 冒険物と言うよりも、単なるファンタジー・・な気が(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾ 92話で完結しました。 都合により? 全て公開しました。 あちこち怪しいところ満載だと思いますが、宜しくお願いします。

処理中です...