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scene 8

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「さぁな。俺はトレルと会って、まだ日が浅い…それは君の方が分かるんじゃないか?」

「…それが分からないから聞いているんだ」


エルスールはポツリと呟いた。


「トレルは何があっても私を選ぶと言った…今までの彼を見ていれば、その言葉はあり得ない」

「エルスールとトレルはお互い好きあってるんだろ?なら、当然の答えだと俺は思うが?」


おかしな事を言うと、ランディは首を傾げる。


「違う…トレルの一番はオルジェだ。昔からずっと、彼の心の中はオルジェに対し償いと親愛の思いで占められていた。それは今でも変わらない。そしてこれからもずっと…私の知っているトレルは、そういう男だ。私はそんなトレルを好きになったんだからな…」

「エルスール」


ランディは見た目よりずっと不器用な生き方しかできない彼女を、そっと抱きしめてやる。


「不安な時は、一人で我慢する必要なんてないんだ。そんなもの、俺でよければいくらでも聞いてやるから」

「………」

エルスールは答えなかった。

言葉の代わり、ランディの背中に回した指先がギュッと彼の服を掴む。

それが彼女なりの意思表示なのだと感じて、ランディは優しく微笑んだ。

「俺はオルジェを…エルスールはトレルの事を疑っている。偶然にしては奇妙な一致だ。ここはリュタンの力を借りて、少し探りを入れてみようと思うんだが…どうだ?」

「………」

エルスールはランディの提案に顔を上げると、訝しげな顔をする。

「あのボーっとした小人に、そんな仕事が出来るとは思えないが…」

「ははっ、大丈夫だろ。そんなに難しい事をさせたりはしないしな」

「………」

呑気なランディとは対照に余計な心配事が増えそうだと、エルスールはそっとタメ息をついた。



 *



ここは…どこだ…?


ゆらゆらと水の中に似た浮遊感が、オルジェの体を包んでいる。

心地よさを感じながらゆっくりと目を覚ました。

薄明かりの広がる世界。

何もない世界。

誰もいない世界…。


どうしてオレはこんな所に?


何かしなければいけない事がある気がするのだが…思い出せない。

会わなければ。

伝えなければ。

何を…誰に?


ゆらゆらとする心地よい感覚は、彼の思考を全て停止させる。


まどろむように、オルジェは再び目を閉じた。 
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