131 / 291
scene 8
4
しおりを挟む
「さぁな。俺はトレルと会って、まだ日が浅い…それは君の方が分かるんじゃないか?」
「…それが分からないから聞いているんだ」
エルスールはポツリと呟いた。
「トレルは何があっても私を選ぶと言った…今までの彼を見ていれば、その言葉はあり得ない」
「エルスールとトレルはお互い好きあってるんだろ?なら、当然の答えだと俺は思うが?」
おかしな事を言うと、ランディは首を傾げる。
「違う…トレルの一番はオルジェだ。昔からずっと、彼の心の中はオルジェに対し償いと親愛の思いで占められていた。それは今でも変わらない。そしてこれからもずっと…私の知っているトレルは、そういう男だ。私はそんなトレルを好きになったんだからな…」
「エルスール」
ランディは見た目よりずっと不器用な生き方しかできない彼女を、そっと抱きしめてやる。
「不安な時は、一人で我慢する必要なんてないんだ。そんなもの、俺でよければいくらでも聞いてやるから」
「………」
エルスールは答えなかった。
言葉の代わり、ランディの背中に回した指先がギュッと彼の服を掴む。
それが彼女なりの意思表示なのだと感じて、ランディは優しく微笑んだ。
「俺はオルジェを…エルスールはトレルの事を疑っている。偶然にしては奇妙な一致だ。ここはリュタンの力を借りて、少し探りを入れてみようと思うんだが…どうだ?」
「………」
エルスールはランディの提案に顔を上げると、訝しげな顔をする。
「あのボーっとした小人に、そんな仕事が出来るとは思えないが…」
「ははっ、大丈夫だろ。そんなに難しい事をさせたりはしないしな」
「………」
呑気なランディとは対照に余計な心配事が増えそうだと、エルスールはそっとタメ息をついた。
*
ここは…どこだ…?
ゆらゆらと水の中に似た浮遊感が、オルジェの体を包んでいる。
心地よさを感じながらゆっくりと目を覚ました。
薄明かりの広がる世界。
何もない世界。
誰もいない世界…。
どうしてオレはこんな所に?
何かしなければいけない事がある気がするのだが…思い出せない。
会わなければ。
伝えなければ。
何を…誰に?
ゆらゆらとする心地よい感覚は、彼の思考を全て停止させる。
まどろむように、オルジェは再び目を閉じた。
「…それが分からないから聞いているんだ」
エルスールはポツリと呟いた。
「トレルは何があっても私を選ぶと言った…今までの彼を見ていれば、その言葉はあり得ない」
「エルスールとトレルはお互い好きあってるんだろ?なら、当然の答えだと俺は思うが?」
おかしな事を言うと、ランディは首を傾げる。
「違う…トレルの一番はオルジェだ。昔からずっと、彼の心の中はオルジェに対し償いと親愛の思いで占められていた。それは今でも変わらない。そしてこれからもずっと…私の知っているトレルは、そういう男だ。私はそんなトレルを好きになったんだからな…」
「エルスール」
ランディは見た目よりずっと不器用な生き方しかできない彼女を、そっと抱きしめてやる。
「不安な時は、一人で我慢する必要なんてないんだ。そんなもの、俺でよければいくらでも聞いてやるから」
「………」
エルスールは答えなかった。
言葉の代わり、ランディの背中に回した指先がギュッと彼の服を掴む。
それが彼女なりの意思表示なのだと感じて、ランディは優しく微笑んだ。
「俺はオルジェを…エルスールはトレルの事を疑っている。偶然にしては奇妙な一致だ。ここはリュタンの力を借りて、少し探りを入れてみようと思うんだが…どうだ?」
「………」
エルスールはランディの提案に顔を上げると、訝しげな顔をする。
「あのボーっとした小人に、そんな仕事が出来るとは思えないが…」
「ははっ、大丈夫だろ。そんなに難しい事をさせたりはしないしな」
「………」
呑気なランディとは対照に余計な心配事が増えそうだと、エルスールはそっとタメ息をついた。
*
ここは…どこだ…?
ゆらゆらと水の中に似た浮遊感が、オルジェの体を包んでいる。
心地よさを感じながらゆっくりと目を覚ました。
薄明かりの広がる世界。
何もない世界。
誰もいない世界…。
どうしてオレはこんな所に?
何かしなければいけない事がある気がするのだが…思い出せない。
会わなければ。
伝えなければ。
何を…誰に?
ゆらゆらとする心地よい感覚は、彼の思考を全て停止させる。
まどろむように、オルジェは再び目を閉じた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~
香木あかり
恋愛
「あなた達の絶望を侯爵様に捧げる契約なの。だから……悪く思わないでね?」
貧乏な子爵家に生まれたカレン・リドリーは、家族から虐げられ、使用人のように働かされていた。
カレンはリドリー家から脱出して平民として生きるため、就職先を探し始めるが、令嬢である彼女の就職活動は難航してしまう。
ある時、不思議な少年ティルからモルザン侯爵家で働くようにスカウトされ、モルザン家に連れていかれるが……
「変わった人間だな。悪魔を前にして驚きもしないとは」
クラウス・モルザンは「悪魔の侯爵」と呼ばれていたが、本当に悪魔だったのだ。
負の感情を糧として生きているクラウスは、社交界での負の感情を摂取するために優秀な侯爵を演じていた。
カレンと契約結婚することになったクラウスは、彼女の家族に目をつける。
そしてクラウスはカレンの家族を絶望させて糧とするため、動き出すのだった。
「お前を虐げていた者たちに絶望を」
※念のためのR-15です
※他サイトでも掲載中
レディース異世界満喫禄
日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。
その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。
その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
聖女の地位も婚約者も全て差し上げます〜LV∞の聖女は冒険者になるらしい〜
みおな
ファンタジー
ティアラ・クリムゾンは伯爵家の令嬢であり、シンクレア王国の筆頭聖女である。
そして、王太子殿下の婚約者でもあった。
だが王太子は公爵令嬢と浮気をした挙句、ティアラのことを偽聖女と冤罪を突きつけ、婚約破棄を宣言する。
「聖女の地位も婚約者も全て差し上げます。ごきげんよう」
父親にも蔑ろにされていたティアラは、そのまま王宮から飛び出して家にも帰らず冒険者を目指すことにする。
工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~
【お知らせ】
このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。
発売は今月(6月)下旬!
詳細は近況ボードにて!
超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。
ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。
一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。
夢の言葉と陽だまりの天使(上)【続編②】
☆リサーナ☆
恋愛
師匠であり想い人リディアとの過去を乗り越えたヴァロンは、ついに妻アカリと甘い夜を過ごし結ばれた。
…しかし、また新たな問題発生!?
アカリの幼なじみの登場で三角関係!?
アカリの元婚約者がヴァロンに迫る!?
そして、まさかまさかの…。
ヴァロンが白金バッジ降格の危機…?!
夢の配達人を辞めてしまう……??
人生の選択を迫られて、 果たしてヴァロンが選ぶ道は……??
今回もハラハラドキドキの展開をお楽しみ下さい (o^^o)
この作品は前作品「夢の言葉と虹の架け橋」 の続編になります。
本編の終わり直後からの開始になりますので、
①夢の言葉は魔法の呪文&夢の言葉は魔法の呪文+《プラス》
②夢の言葉と虹の架け橋
の順番で読んて頂けると、より楽しんでもらえると思います。
この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。
〈別サイトにて〉
2016年12月1日(木) 投稿・連載開始
2017年2月24日(金) 完結
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる