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scene 6

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少年はエルスールの赤い口を開けた腕の傷口を細い指でなぞると、その血をペロリと舐めた。

その仕草が外見とそぐわず、彼女は怪訝に眉をひそめる。

彼はチラリと視線を合わせると、


「人間に飼われた悪魔の味がする」


からかい混じりクッと短く笑う。

「なっ…」

言い当てられて、エルスールはカッとなった。

「怒ると無駄に体力を消耗するよ。それより助けて欲しいんだろ?」

「………うるさい」

「女性は素直な方が可愛いと思うんだが…と言うのは知人からの受け売りだがな」

「………?」

エルスールは訝しげに眉を顰めた。

今の言葉、聞いた事がある。

トレルがよく使っていた言葉と同じだ…。


まさか、この少年…。


「お前、オルジェか?」


それを聞いて、少年は口だけで笑った。

「そう呼ばれる事もある。それよりどうする、怪我は治さなくていいのか?」

「なぜお前がここに」

「今はオレが聞いてるんだ。どうする?」

「た……頼む……」

「そうそう、素直が1番だ」

オルジェは満足げに頷くと、エルスールの見ている前であっという間に体中の傷を治していく。

最後の傷が塞がると嘘のように体が軽くなり、彼女はオルジェが拾い集めてくれた服を身につけた。


「助かった、礼を言う」


少年に頭を下げると、

「お前が生きたいと願ったから分けてやった命だ。粗末に扱ったら承知しないからな」

彼はそれだけ言って歩き出した。


「待ってくれ。お前の本当の名前は何だ?」


「まだ聞くのか」

少年は背を向けたまま、呆れた声を出す。

「こんな事、人間に出来る訳ないからな」

半端ではない程の傷を、あっという間に治してみせたのだ。

少年が《ただの悪魔》とは思えなかった。

すると彼は仕方ないなぁと肩を竦めて、


「ルシファー」


とだけ言うと、森の中に姿を消した。


「う、嘘だろ」


エルスールは彼の名前を聞いて、茫然自失に呟いた。 
 
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