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近くて遠い想い人

side アドルフ

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「アドルフ様……」

 熱のこもった吐息と共にしなだれかかる汗臭い体に、私は反射的に身体を起した。



 「少し休ませてくれ。」

 「……はい。」



 最近のジゼルは、まさに盛りのついた雌猫だ。
 恥じらいの欠片も持ち合わせてはいない。
 私に愛されていると勘違いし、一晩に何度も私を求めて来る。



あれからもう三か月が経とうとしているのに、ジゼルにはまだ子が出来た兆候もない。
 何とも忌々しいことだ。
しかし、三か月が経ったということは、あと三か月でアリシアと会えるということでもある。
 私はそれだけを心の支えに、おぞましい悪夢のようなジゼルとの営みを乗り越えて来た。
 早く子を孕んでくれとそれだけを願いながら…



焦っても仕方がない事だが、子が出来た兆候が表れれば、それを口実にジゼルと離れることが出来る。
だから、どうしても焦ってしまう。
 愛情の欠片もない女を抱くことは、それほどまでに辛いことなのだ。
ましてや、私にはアリシアという想い人がいるのだから…



塔でのアリシアの様子はようとしてわからない。
 訊ねても「お元気です。」という一言で済まされてしまう。
 側室になることは決まっているというのに、会うことさえ許されない。
なんと哀しいことか…



そういえば、リュシアンは最近女と遊ぶことをやめ、歌ばかり歌っている。
リュートを習い始めたとかいう噂も聞いた。
 一体、何を考えているのやら…
城を出て、吟遊詩人にでもなるつもりか…まったくたわけた真似を…
あやつがあんな調子だから、私がこんなに苦労をするのだ。
 本当にあいつは気楽で羨ましい。



 (うっ……)



また頭痛の発作だ。
このところ、以前にも増して頭痛の回数が増えるようになった。
きっと、ジゼルのせいだろう。
 常に我慢を強いられているから、心の負担が痛みに変わっているのかもしれない。



 「ジゼル、すまないが、今夜はもう無理そうだ。
 頭が痛くてな…」

そう言って、私はいつもの丸薬を飲み込んだ。



 「そう…ですか。わかりました。」

 不服そうな顔をしながらも、ジゼルは納得してくれた。
 私は、気分がほんの少し軽くなるのを感じた。

 
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