あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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2007クリスマス企画

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我に返った私は、もそもそとこたつから出ると、ベランダに向かった。
サッシ一枚隔たっただけなのに、部屋の中とは別世界のように寒い。
でも、火照った顔にはこんな冷たい空気の方が心地良い。

冬の空はいつもより澄みきって、夜空の星がよく見える。



 (わぁ…星が綺麗…)



ふだんは星を見る事なんてめったにないくせに、今は妄想モードで乙女心に浸っていたせいなのか、空を見上げてそんなことを考えている自分自身に私は少し驚いた。



「あ!流れ星だ!」



 (お、お願い事言わなくちゃ!
えっと、えっと…………か、か、架月とぶつかる!)



流れ星を見てすぐに目をつぶってしまったから、流れきる前に間に合ったかどうかわからない。



 (っていうか、あせって、変なことお願いしちゃったよ…ぶつかるって何なんだ…)



いつもながら自分のマヌケさにがっくりと肩を落とす。



 (ま、いっか。どうせそんなお願いなんて叶うわけないし…
寒くなって来たし、中に入ろうっと)



 「ぎゃああああーーーーー!!」




 部屋の中に戻るなり…そこにいたありえないものを見て、私は思わず大きな声を上げていた。



 「なんて声出すんだよ…色気ないなぁ…
っていうか、本当、不思議なお願いだよね。
ぶつかりたいって何…?!」

 「しゃ…しゃ…しゃべった…」

 「なんでまたそんなことを…?」



 (そ、そうだ!これは、夢なんだ…そうよ、夢なのよ…!
そうでなきゃ、こんなことありえない!)



 「違うよ。夢じゃないよ。
 君にもしっかり見えてるんだろ?」

 「私、しゃべってないのに…
あんた、私の考えてることがわかるの?」

 「当然!」

私の目の前には一頭の大きなケモノがいた。
狭い部屋の中で窮屈そうに立っている。
しかも、そいつは、人の心の中を読み、人間の言葉をしゃべってる…
ない、ない、ない…!こんなことあってたまるか!



「なんで、鹿がこんなところに…」

「鹿じゃない。トナカイだ。」

「トナカイ?って、サンタさんのそりを牽く…あれ?」

「まぁ、一応はそういうことにはなってるけどね…」

ありえないことなのに、私はなぜだかその奇妙なトナカイと会話してた。



「変なトナカイ…」

「ぶつかりたいなんて願う君こそ、変だと思うけど…」

最初の驚きと恐怖はどこへやら…
いや、まだ混乱はしてたけど…とりあえず、突っ立ってるのもなんだから、私は、トナカイの向かいに座った。



 「……みかん、食べる?」

 「いらない。
この手じゃ、むけないから。」

 「あっ、そ。
ところで、あんた、なんでこんな所にいるのよ?
それにしてもすごい角ね…家具にぶつけないでよ!」

 「心配しなくて大丈夫だよ!そんなへましないから。
とにかく…さっきの変なお願いが気になってね…
どういう意味なのか、ちょっと興味がわいたっていうか…」

そう言って、トナカイは私をじっとみつめた。



 「人のお願い事を盗み聞きしないでよ!」

 「盗み聞きなんて、人聞きの悪いこと言わないでくれよ。
 君が僕にお願いしたんだろう!」

 「違うわ。
 私は流れ星にお願いしたのよ!」

 「僕がその流れ星なんだもん。」

「どういうこと?」

「だ~か~ら~…僕は、流れ星の精なんだよ。」

「嘘おっしゃい!
流れ星の精がなんでトナカイなのよ!」

「精霊には特にこれといった姿はない。
だけど、姿のないものを人間は怖がるから、なじみのあるもの…と考えて、季節柄、トナカイかなって思ったんだよね。」

「はぁ?」

トナカイのおかしな話に、私の頭はさらに混乱の度合いを増した。

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