あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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星屑の欠片

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(ケヴィン…それは違うと思うよ。
 考えてもごらんよ。
 彼女はなぜ病気のことをずっと君に隠してたんだと思う?)

 「またそれか…
それなら、彼女の両親に言われたよ。
ジョゼットは俺と会ってる時は、楽しくて病気のことを忘れることが出来たんだって。
 俺と出会って生きる力をもらったから、医者の見立てより一年以上長く生きられたんだって。
でも、それは、周りの皆がそう思ってるだけさ。
そう思いたいか、俺のことを気遣ってくれてるだけなんだ…!
ジョゼットがそう言ったわけじゃない!!」

ケヴィンの感情は高ぶり、握り締めた拳は小刻みに震えていた。



 (ケヴィン…)

 「俺…本当にもう駄目なんだ…
頑張って、頑張って、頑張り過ぎて…俺にはこれ以上頑張れる力が残ってない…
ジョゼットに会いたい…
ジョゼットのいない世界は辛過ぎるよ…楽になりたい…
雪だるまくん、俺は…もう誰がなんと言おうと駄目なんだ…」

 (ケヴィン、君がどれほど頑張って来たか…僕にはよくわかるよ。
そうだ!これからは少し考え方を変えてみたらどうだい?
 頑張らなくて良いんだ。
 毎日、泣いたって良い。
ジョゼットのことを忘れようとしなくても良い。
だって、彼女は君の大切な人だもの。
いや…違う…忘れちゃ駄目なんだ。
 君が彼女のことを覚えてる限り、ジョゼットは君の心の中で生きていられるんだもの。
これからは無理をせず、ただ生きることだけを考えてみないか?)

 「ありがとう、雪だるまくん。
でも…それは無理だよ。
 彼女のいない世界で、生きていてどうなるっていうんだ?
 心の中だけなんて、寂し過ぎるよ…」

 (生きてることはとても幸せなことだよ。
ここは一年中寒い冬だけど、それでもほんの少し暖かい日もあれば、雪が降り止まない日もある。
 三日月の日も満月の日もある。
 小鳥が遊びに来る事もある。
そんな小さな変化でも僕は楽しいと思うんだ。
それにね…たまにだけど人間が来てくれることもある。
 今日はコミュニケーションの取れる君みたいな人間が来てくれた。
 最高だよ!
 今日は、僕が生きて来た中で、一番幸せな日さ!)

 「こんな所にひとりぼっちでいて、この次は何年後に来るかわからない人間を待つのが幸せだって言うのか?」

 (そうだよ。
ねぇ、ケヴィン、君もしばらくこの土地にいたらどう?
ここにいたら、星の力で生きていく力が強くなると思うんだ。
 僕と一緒に楽しい事をおしゃべりしようよ!)

 「……本当に、おまえは変わってるな。
 俺なんかのために、そんな必死になって…」

ケヴィンは、哀しげに微笑むと、バッグの中から薬瓶を取り出した。
それを手にあけ、ポケットのウィスキーで一気に流しこむ。



 (ケヴィン!!)
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