あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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終わりなき旅立ち

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 二人がこの町にやって来てからどのくらい経っただろうか…



二人は、この町でいろんなことを学び、楽しんだ。
ここでは、思い描いたことが現実として現れる。
だが、それはなんでもというわけではなかった。
叶う事もあれば、そうでないこともあるのだ。

周りの人達は、思った通り、皆、親切で良い人ばかりだった。
以前は、人嫌いでもあったジョゼットは、今ではそんな素振りは微塵も感じられない。
ハイキングを楽しんだり、パーティを開いたり、様々な人々とごく自然に関われるようになっていた。

ローランは、毎日のように絵を描いた。
どこへでかけるにもスケッチブックを持ち歩いた。
ジョゼットの肖像画も何枚も描いた。
描きたい風景が多過ぎると、嬉しい悲鳴を上げるほどだった。

ローランに習って、ジョゼットも絵を描き始めた。
今まで、絵など描いたこともなければ絵に対して何の関心もなかったジョゼットは、ここへ来て初めて絵の楽しさというものを知ることが出来た。
近所の女性には、刺繍や洋裁も教わるようになった。

毎日が新しい発見に満ち溢れ、出来る事が増えていく。
二人は、心の踊るような時間を過ごしていた。
もちろん、二人の仲は順調過ぎるほどに順調で、お互いを想う気持ちはさらに大きくなっていた。



「ローラン…
私、最近、なんだか急に怖くなることがあるの。」

「怖い…?なにが?
君になにかいやなことを言う人でもいるのかい?」

「そんな人いるはずないじゃない。
皆、優しくしてくれるし、毎日が楽しくてたまらないわ。」

「じゃあ、何が怖いっていうんだい?」

ジョゼットは、遠くをみつめながらぽつりと呟いた。



「……幸せすぎるのよ…」

「幸せ過ぎるのが悪いことなのかい?」

「そうじゃない…
そうじゃないけど…こんなに幸せだから…
次には不幸が…今と同じくらい大きな不幸がやってくるんじゃないかって心配なの!」

「そんなことはないさ。
僕達は今まで不幸だったから…だから、今、幸せになれたんだよ、きっと…」

「でも、私は…」

「そんなこと考えるのはよそうよ。
どんな時にも僕がついてるから…
たとえ、君の心配通り、今と同じくらい大きな不幸がやってきたとしても、僕が君を守るから心配ないさ!」

「本当?
本当に、なにかあっても助けてくれる?
私の傍にいてくれる?」

「当然だよ!
でも、その代わり、僕が不幸になっても助けてもらうよ!」

「ローランったら…」

ローランとジョゼットは、抱き合い、唇を重ねた。
お互いの温もりが、心地良い安心感に変わる。


(私は今までこんなに幸せを感じたことがなかったから…
そう…だから、そんなつまらない心配をしてしまうんだわ…!)






………しかし…そうではなかった…
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