あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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終わりなき旅立ち

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(なんだ…思ってた程、ひどい所じゃないわ!)



空は真っ黒な雲に覆い尽くされ、太陽は欠片程も見えない。
重く湿った空気は、ひんやりと冷たい。

しばらく歩いていくと、薄汚れたガラス窓の小さな家があった。

ジョゼットはそっと近付き、汚れた窓から中をのぞきこむ。
見えたのはリビングらしき部屋。
人が住んでいる気配はない。
それは、中をのぞくまでもなく、気配でわかっていたこと。
静か過ぎる気配で…



(やっぱり、誰もいないわ…)



それはこの家だけではなかった。
歩いてきた道でも出会う者はいなかった。
ほとんど音が聞こえない。
聞こえるのは、ジョゼット自らが発する音だけ。
落ち葉を踏みしめる音…
衣擦れの音…
そんな密やかな音が大きく感じられる程に、静かなのだ。

空には小鳥さえも羽ばたいてはいない。



(静かな方が良いわ…
騒がしいのは苦手だもの…)



ジョゼットは、なおもあたりを歩き続ける。
何かを探してるわけではないのだが、なぜだか足を停めることが出来ない。
何軒かの家が所々にぽつんぽつんと点在していたが、そのほとんどが空き家だった。



(これってもしかしたら、好きな所に勝手に住み着いても良いってことなのかしら?
きっと、そうよね…?
……そうだ…!)



ジョゼットは、次にみつけた空き家に住むことを決めた。



しばらく歩くと、その家はあった。
いつもと同じように窓から中をのぞいてみる。
ジョゼットが考えた通り、そこも空き家だった。
部屋の中には灰色の埃が堆くたまり、ソファがひっくり返っていた。



(これだとさっき見た家の方がマシだわ。
でも、引き返すのも面倒ね…
いいわ、どこだって。)



ジョゼットは、玄関にまわり、扉のノブを回す。
やはり、鍵はかかっていなかった。


中に入ると、床がぎしぎしと音を立てた。
同時に、ジョゼットは咳き込む。
空気はかび臭く、ひどく埃っぽい。

ジョゼットは、先程中をのぞいた部屋に入り、その窓を開け放した。
心地良い風は吹いてはいなかったが、しばらくすると幾分部屋の中の空気がマシになってきたように思えた。
外の空気を胸いっぱいに吸い込むと、廊下を進んだ。
奥には寝室があった。
窓のない息詰まるような寝室だ。
ジョゼットは、寝台から枕を持ち出し、開け放った窓の前でパンパンと叩く。

気休め程度に綺麗になった枕を再び寝台に戻すと、ジョゼットは、そのままそこに横になった。
寝台は堅くて冷たい。



(この位なら我慢出来るわ…)



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