あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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十字架の楽園

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「ええ…そんなこと、なんともないわ。
第一、ショックを受けたって受けなくったって、私が培養液の中で作られたことに変わりはないのだもの。
そんなこと、悩むだけ馬鹿馬鹿しいんじゃないかしら?」

少年は、私のその言葉に、口笛を吹いた。



「あいつに育てられると、おまえもあいつと同じようになるんだな。」

「あなたは、ロビンソン博士の息子だって言ったじゃない。
だったら、あなたも博士と同じようになるんじゃないの?」

「いいや、俺はそうはならない。
なぜなら、俺はあいつに育てられた記憶なんかないからだ。
俺を育てたのはおふくろと婆さんだけだ。
あいつは、おふくろのお腹の中に俺を仕込んだだけのことだからな。
…おい、ちょっと座らないか?」

私の返事を聞く事もなく、少年は木の傍へ歩み寄って行く。
なぜだか私もその後をついて、私達は木の根元に並んで腰を降ろした。

座るなり、少年は私に向かってロビンソン博士の悪口を話し始めた。
少年はジョシュアという名前で、私より2つ年上の17歳だという。
ジョシュアの母親は名門貴族の娘で、ロビンソン博士より20歳も年下らしい。
あるパーティで博士に出会った母親は、博士の浮世離れした雰囲気や知識と教養にのめりこみ、半ば一方的に結婚を迫ったそうだ。



「おふくろはおやじのために多額の資金援助をした。
この別荘も、落ちついて研究が出来るようにとわざわざ建ててやったものらしい。
結婚しても、おやじは変わらず、研究に没頭した。
おふくろは、そんなおやじを振り向かせたい一心で俺を身篭ったんだ。
だが、子供が出来てもそれは変わらなかった。
おやじは俺のことを一度も抱いた事がなかったらしい。
それどころか、俺の泣き声がうるさいと言ってこっちに入り浸るようになった。
そのうち、俺の祖父と祖母が相次いで亡くなり、それからおふくろはだんだんと酒に溺れるようになっていった。
きっと寂しかったんだろうな…
俺が物心着いた頃のおふくろは、いつも酒に酔って泣いたりわめいたりしていたよ。
そして、俺が13歳の時…おふくろは死んだ…
学校から帰ったら、お袋はたくさんの酒瓶の横で倒れてたんだ…」

「アルコール中毒による心不全かしら?」

「………
おまえは、本当になにもわからない女だな。
そういう時は、嘘でも『可哀想に…』っていうもんなんだよ!」

ジョシュアは、私に向かってとても怖い顔をして声を荒げた。
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