あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
139 / 406
十字架の楽園

しおりを挟む
「リリィ、食事の準備もしてやれずすまないな。最近、少し忙しくてな。
退屈だったら散歩でもしてきたらどうだ?
今日は天気が良さそうだぞ。」

「そうね、そうするわ…」

私は、屋敷を出て広い庭の中を歩く…
それはすっかり見慣れた…いや、見飽きた風景。
お天気が良かろうが悪かろうが、そんなことが一体何だっていうんだろう…


見飽きた風景はただそれだけのこと…
何も面白いものはない…



だけど、その日は少しだけ違ってた…



「あ……」

私の目の前に、全身傷だらけの少年が立っていたのだ。
綺麗な金髪は乱れ、服はあちこちが破れてそこから赤い血が流れていた。
年は私と同じくらい…?いや、少し年下だろうか?
彼は、私の方を見てとても驚いたような表情をしていた。
この場合、驚くのは私の方だと思うのだけど…




「あなた、誰?」

「え…あ…あ……」

「外から侵入して来たのね…」

「騒がないでくれ!
俺は…ただ、ここがどうなってるのか…
おまえがどんな奴なのか、見てみたかっただけなんだ。」

「騒ぐ気はないわ。
でも、どうして私のことを…?」

「あぁ……
俺は、知ってるんだ…
おまえの正体をな…」

そう言った少年の視線が急に鋭くなったような気がした。



「正体?」

「隠したって無駄だぜ。
なぜなら、俺はラッシュ・ロビンソンの息子なんだからな…」

「ロビンソン博士の?」

少年とロビンソン博士はまるで似ていない。
ロビンソン博士は、小柄で痩せた老人だ。
性格は温厚で物腰も柔らかい。
この少年のように粗暴な雰囲気はまったくない。
でも、この少年がそういうのだからきっとそうなのだろう。
ロビンソン博士が結婚していたことすら私は知らなかったけど、そんなことは私にとってはどうでも良いことだ。



「似てないから信じられないって顔だな?
でも、正真正銘、俺はあいつの息子だ。
だから知ってるんだ…
……おまえの秘密をな…」

「秘密?私にはそんなものはないわ。
もしかしたら、私の作られ方が普通とは少し違うってことを言ってるの?」

そう言うと、少年は目を大きく見開いて私の方をみつめた。



「おまえ…知ってたのか?
自分の秘密を…」

「そんなこと秘密でもなんでもないわ。
博士達は私が小さい頃からずっと言ってたもの。
『おまえを作ったのは私達だ。
いや、私達はある意味、神だ』って…
……もっと詳しいことも聞いてるわ。」

「……さすがはおやじだな…
小さな子供にまでそんなことを平気で言う…あいつは所詮そういう奴だからな。
それで、おまえはそのことにショックを受けなかったのか?!」


 
しおりを挟む

処理中です...