あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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黒猫の願い事

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(……ん?)



言葉を言いきらないうちに、なにかおかしな異変があったことに僕は気付いた。
今までと同じ場所にいるのに、見えるものが微妙に違う。
ゆっくりと首を回して上の方を見上げると……



(な、なんでだよ!?)



今、おかしなものを見たような気がして、僕は焦って視線を戻した。
でも、今度はまたそこに違う驚きを感じてしまった。
僕は外にいることは間違いない。
なのに、僕の座っている所は土の上じゃなくて、紺色の生地の上で……



「わぁ……」



僕の座ってた所が急に動いて、僕は土の上に投げ出された。



「すっごい!こんなに遠くまで見えるんだ!」

その声は明らかに僕の声で……僕は首が痛くなるほど上を見上げると、そこには見慣れた僕の姿があって……



(ははは……嘘だろ?
なんで、僕の姿を僕が見てるんだ?
一体、どうなってんだ!?)



僕は激しく混乱していた。
全く、わけがわからない。
なんだって、こんな……
……そうか!わかった!
僕は夢を見てるんだ!



「人間って、やっぱりすごいもんだね。」

僕が腰をかがめて僕に近寄り、そして、僕の身体をひょいと持ち上げた。



「……どう、マイケル?
喜んでくれてる?」



(……は?なんだって?
マイケルは僕…だよな?
ってことは、今の質問は僕に対しての質問で……
でも、質問してるのは僕で……
あぁ、気味が悪い……
お願いだ、早く覚めてくれ!)



僕は眠りから覚める方法なんて知らないから、固く目を閉じ、とにかく心の中でそう祈った。



「ちょっと冷えてきたし、とにかく帰ろうね。
あ、これはなくしちゃ大変。」

僕はそう言って、傍らに落ちていたロザリオを自分の首に架け、僕を抱いたまま、家に向かって戻って行く。
悪夢はまだ覚めない。
僕を抱いた僕の歩く振動さえ、現実みたいにはっきりと伝わって来る。



「ふぎゃーーーー!」



神様ーーー!と叫んだはずなのに、僕の声はアレクみたいな猫の声になっていた。
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