あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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年明け島にようこそ!

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『おい、ジュリアン…』

エレスのその声はつるはしが振り下ろされる前に発せられたが、ジュリアンはまるで聞こえなかったかのようにその声には反応しなかった。



『ジュリアン…私の話を聞け。』

「……何なんだ。
こっちは、忙しいんだ!」

不機嫌な顔をしたジュリアンが片手で汗を拭い、厳しい視線でエレスを睨み付けた。



『ジュリアン、そんな所に宝はないと思うのだが…』

「……おまえは何かってぇと俺のすることにケチをつけやがるんだな。
なんで、ないってわかるんだ!?
おまえには、土の中を見通す力でもあるってのか?」

眉間に深い皺を刻みながら、ジュリアンは腹立たしげに人差し指を振る。



『……残念ながら私にはそのような力はない。
だが、常識的に考えると、到底こんな所にあるとは思えないのだがな。
万一、ここにあるとしたら、すでに何者が掘った形跡があるはずだ。
だが、そんなものがないことはおまえにはすぐにわかるだろう?』

「だ…だけど、宝が何だかはわかんねぇんだぞ!
ものすごい宝ってことは、ダイヤモンドかもしれねぇし、もしかしたらアゼツライトやギベオンだってことも考えられる。
だとしたら、そういうものが眠ってそうなのはこのあたりじゃあここしかねぇ!」

声を荒げるジュリアンに、エレスは呆れ顔で溜め息を吐いた。



『そもそも、そこからして間違いが始まっているようだな。
何も宝が石だとは書かれてはいなかった。
そりゃあ確かにダイヤモンドなら世間的に言っても宝と呼べるかもしれないが、アゼツライトやギベオン等をありがたがるのはごく一部の者だけだ。
一般的にはそれが何であるかを知らない者の方が多いだろう。
だからこそ、そんなものが宝な筈がない。
仮に宝がダイヤモンドだったとしても、それは研磨されネックレスかリング…つまりはアクセサリー等に加工された物だろう。
つまり、そういう物ならこんな土の中にはないということだ。
ならば、おそらく宝箱のようなものに入れられて、どこかに置かれているのではないか?』

「そ、それはてめぇの想像だろうが!
絶対に、宝が石じゃないって決まったわけでも、土の中に埋まってないとも限らねぇ!
つまんねぇこと言ってないで、おまえは黙って石の中にでも戻ってやがれ!
俺は絶対にみつけだす!
お宝を見つけ出すんだ!」

そう言って、再び、つるはしをふるい土を掘り始めたジュリアンに、エレスは頭を抱え小さく首を振る。 
 
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