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 「なんだと…」

 数時間の後、再び、トラニキアの頂上に登ったネストルは、結界の傍に落ちている手紙をみつけた。
それを読み進めるうちに、ネストルの表情は厳しいものへと変わっていった。



 (なんということだ…
せっかく捕まえた者がまるで関係のない者だったとは……)



ネストルは苛々とした様子で手紙を引きちぎり、小さな破片となった手紙は強風に飛ばされた。



そこには、あの時、一人の男を捕えたことが書かれてあった。
だが、その男は赤い雲の者とは無関係で、一度トラニキアの頂上の国境の結界を見てみたくて、魔導師に頼んで連れて来てもらっただけだという。
その後、すぐに男達が現れ、その男達が赤い雲を出現させたと捕まった男は主張しているとのこと。
 逃げ去った男達は、金髪の体格の良い若い男、その男より少し年上に見える銀髪の男、そして、その男と同年代に見える茶色い髪の細身の男と、華奢な印象を受ける若い男の四人で、そのうちの茶色い髪の男と銀髪の男が魔導師だと書かれてあった。



 (金髪の体格の良い男と言うのは間違いなくマウリッツだ。
だが…気になるのは、華奢な印象を受ける若い男…
まさか、ディオニシスが生きているはずはない。
しかし、それは奴の見た目にも符合する…)



 結界の向こう側に、おぼろげな人影を認めたネストルは、大きな声を張りあげた。



 「華奢な男の似顔絵を送ってくれ!」



 (ディオニシスのはずがない…奴は、死んだんだ!)



 「捕えた男はどうすれば良い?」

 強風に乗ってロージックの者からの声が響いた。



 「好きにしろ!」



ネストルの頭の中には、華奢な男がディオニシスなのかそうではないのか、そのことしかなかった。
たまたま頂上の結界を見に来た男のこと等、全く気にもならなかった。
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