上 下
204 / 334
折れた杖

しおりを挟む



 「なぁ、キーファ…まだなのか?」

 「もうすぐだって言っただろ?」

 「もうすぐ、もうすぐって、もう何度も聞いたぜ。」

 「今度こそ本当だ。
あと少し…ほら…あの山なんだ。」

キーファは少し先の山を指差した。



 朝、キーファの家を発ち、昼過ぎに食堂で昼食を済ませ、それから、キーファの言葉に騙されながらまた歩き続けて、ようやく目標の山が彼らの目に映った。
そこらには建物らしきものも、どこにでも見かける田畑さえもなかった。



 「あの山になにがあるんだよ。」

 「だから、それは行ってのお楽しみだって言ってるだろ?」

キーファは現場に着くまで、どうしても口を割るつもりはなさそうだった。
それを理解し、諦めたアレクは、小さな溜息を吐いた。



 「つまらないものだったら、あんただけあの山に残して帰るからな。」

 「あぁ、どうぞご勝手に。」

 他愛ない会話を交わしている間に、男達はようやく山の麓に辿りついた。



 「……ウォルト…どうした?」

 不意に立ち止まったウォルトに、マウリッツは訝しげな視線を向けた。



 「なにか…いや、なんでもない。きっと気のせいだ。」

ウォルトはいつものように人懐っこい笑顔を浮かべ、また歩き出した。



 「あれ?なんだか急に涼しくなったような気がしないか?」

 山の中を進んでいくうちに、アレクがそんなことを呟いた。



 「確かにそうだな。
おい、キーファ…どういうことなんだ?」

キーファはにやりと笑い、ゆっくりと頷く。



 「キーファ…?」

 「俺もなぜかっていう理由は知らない。
ただ…ここは、昔から絶対に近付いちゃならないって言われてる場所なんだ。
だから、このあたりには誰もいなかっただろう?」

 「えっ!?
なんだって?そんな危険な森に俺達を連れて来たのか?」

 心配そうな顔でそう訊ねたマウリッツに、キーファは大きな口を開けて愉快そうに笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

すべての世界の平行で

MIYU1996
ファンタジー
この世界では、平行世界などに行くことができる。 その時、勇者の後継者と言われ全属性魔法や魔眼を持っている主人公ハジメ二葉は、別の世界で、冒険者になることを目指す。 初めは、1人での旅のはずだったが、幼馴染のススムと世界を越えて旅立つ。

占い好きな令嬢は、占いのせいで無気力王子と婚約する羽目になりました。

香木あかり
恋愛
「今、なんて仰ったの?お父様……」 「お前は第一王子と婚約することになった。先程、使者が来て手紙を置いていったのだ」 伯爵令嬢のセリーヌには、誰にも言えない秘密があった。それは、素性を隠して占い師をしていること。 ある日、黒マントの怪しい人物から依頼された相性占いをすることに。とある男性と一番相性が良い女性を四人の中から選んでほしいとのことだった。 男性と相性の良い相手がおらず、一番マシな女性を教えると、黒マントの人物は納得して帰っていった。 その数日後、セリーヌは王子との婚約を言い渡されてしまう。 セリーヌは、自分自身のことを王子ロベルトとの相性が一番マシだと占っていたのだった。 「では改めて……ロベルト様、これからよろしくお願いいたしますね」 「あぁ。ところで令嬢、君の名前は何だったかな?」 ロベルトは何に対しても無気力で、セリーヌとは全く相性が合わなかったが、二人で国王から課せられた任務をこなすことになり……。 ※他サイトにも掲載中です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...