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折れた杖

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「だってさ…あ……」

マウリッツは向かいから歩いて来る女性に目を留め、それと同時に言葉も止まった。



 「こんにちは……あの…今、何か月ですか?」

 女性とすれ違いざま、マウリッツは不意に声をかけた。



 「え?あぁ、こんにちは。
この子はもうすぐ五カ月になります。」

 「へえ…そうなんですか。」

マウリッツは若い母親の腕に抱かれた赤ん坊を愛しげな瞳でみつめた。



 (マウリッツ、子供が好きなのかな?
あ……そうか……)



ダニエルは、思い出した。
マウリッツには、もうじき子供が生まれるはずだったことを…
本来なら、お妃の傍にいて出産を見届けることが出来ただろうに、それが出来なかったばかりか、帰ることさえ難しい隣国・ロージックに来るという事態になっている。
それは、誰あろう、自分のせいだということで、ダニエルは心を痛めた。



 「……じゃ、元気でな!」

マウリッツは、赤ん坊の髪を優しく撫で、離れて行く親子に大きく手を振った。



 「……君の子供ももうずいぶん大きくなってるだろうね。
ごめんよ、マウリッツ…僕のせいで……」

 「またそれか。
ディオ…いいかげんにしろよ。
 俺はおまえに会いに行ったのも、ここへ来たのも誰かにそうしろって言われたからじゃない。
 俺の意志で決めたことだ。
 俺が決めたことで、なんでおまえに謝られなきゃいけないんだ。
おかしいだろ?」

 「……でも……」

 「さ、そろそろ帰ろう。
 奴らもいいかげん起きる頃だろうし…起きてなかったら無理矢理起こしてやろうぜ!」

そう言いながら、マウリッツはダニエルの背中を叩いた。
ダニエルも仕方なく笑顔を作り、マウリッツに向かって小さく頷いた。
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