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崩れる塔
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「そうだぞ、ネストル。
これからはオレスト医師の言うことは私の言葉として聞くようにして、早く身体を治すのだぞ。」
「セルギオス様、私のせいでディオニシスが連れ去られたというのに、そのように私の身を案じて下さるとは……私は……私は……」
ネストルは大袈裟に頭を抱え、悲しげに目を伏せる。
「そのことはもう言うな。
おまえのせいではないことは、皆、わかっている。
それにな、ネストル。
ディオニシスはたいそう運の強い子だ。
きっとマウリッツが無事に連れ帰って来てくれる。
私は今もそう信じている…」
「マウリッツがディオニシスを…?
ど、どういうことです?」
セルギオスの思いがけない言葉に、ネストルは大きく目を開けた。
「実はな…マウリッツがディオニシスを探しにロージックに渡ったのだ。」
「な、なんですって!
そ、そんなこと、どうやって…?」
「結界を破り、マウリッツと共の者を送りこんだ。
私はそのことでラルフィンを訪ねていたのだが、ベルッツもトゥーラも少しも私を咎めることはなく、そればかりかディオニシスのことをたいそう心配してくれた。
……本当にありがたいことだ。」
「そ、そうだったんですか…マウリッツが…」
(これは、却って好都合だ。
奴がディオニシスからどのようなことを聞き及んでいるかはわからないが、邪魔な奴であることは確かだ。
奴を罠にかけることには失敗したが、ロージックに渡ったのなら、奴を二度とこちらへ戻さなければそれで済む。
運は私に味方してくれているようだな。)
「どのくらいの時がかかるかはわからんが、ディオニシスは必ず戻って来る。
……だから、おまえも気に病むことはない。
安心して養生するのだぞ。」
「ありがとうございます、セルギオス様。」
(気の毒にな…あと数日も経てば、おまえは息子の訃報を耳にするというのに…)
ネストルは心の声をおくびにも出さず、殊勝な顔でセルギオスに頭を下げた。
これからはオレスト医師の言うことは私の言葉として聞くようにして、早く身体を治すのだぞ。」
「セルギオス様、私のせいでディオニシスが連れ去られたというのに、そのように私の身を案じて下さるとは……私は……私は……」
ネストルは大袈裟に頭を抱え、悲しげに目を伏せる。
「そのことはもう言うな。
おまえのせいではないことは、皆、わかっている。
それにな、ネストル。
ディオニシスはたいそう運の強い子だ。
きっとマウリッツが無事に連れ帰って来てくれる。
私は今もそう信じている…」
「マウリッツがディオニシスを…?
ど、どういうことです?」
セルギオスの思いがけない言葉に、ネストルは大きく目を開けた。
「実はな…マウリッツがディオニシスを探しにロージックに渡ったのだ。」
「な、なんですって!
そ、そんなこと、どうやって…?」
「結界を破り、マウリッツと共の者を送りこんだ。
私はそのことでラルフィンを訪ねていたのだが、ベルッツもトゥーラも少しも私を咎めることはなく、そればかりかディオニシスのことをたいそう心配してくれた。
……本当にありがたいことだ。」
「そ、そうだったんですか…マウリッツが…」
(これは、却って好都合だ。
奴がディオニシスからどのようなことを聞き及んでいるかはわからないが、邪魔な奴であることは確かだ。
奴を罠にかけることには失敗したが、ロージックに渡ったのなら、奴を二度とこちらへ戻さなければそれで済む。
運は私に味方してくれているようだな。)
「どのくらいの時がかかるかはわからんが、ディオニシスは必ず戻って来る。
……だから、おまえも気に病むことはない。
安心して養生するのだぞ。」
「ありがとうございます、セルギオス様。」
(気の毒にな…あと数日も経てば、おまえは息子の訃報を耳にするというのに…)
ネストルは心の声をおくびにも出さず、殊勝な顔でセルギオスに頭を下げた。
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