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崩れる塔

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「その可能性はないな。
 隊員達は、山についてとても詳しい。
 小さな異変も見逃さない。
この先に続く道には、人が通った痕跡はないと彼らは断言した。」

 「しかし、彼らも人間だ。
 見落としたということもあるだろう。
それよりも、マウリッツ……なぜ、セルギオス様がここに?」

ネストルは、そう言いながらセルギオスに視線を向ける。



 「それは俺が連絡した。
 門番に頼んで緊急の狼煙を上げてもらい、村の魔導師を呼び、その者にラビスを城まで運んでもらい事情を王に伝えた。」

 「わ、私に断りもなく、そんな勝手なことを…!」

 「何を言ってる!ディオがいなくなったのだぞ!
こんな大変な時に王に連絡せずにどうするんだ!」

 「しかし、セルギオス様が城を空けるなど…
その間になにかあったらどうするんだ!
セルギオス様のお手を患わせることなく、私はなんとか自分で解決するつもりだった。」

 「君のその考えが、ディオの命を危うくするかもしれないんだぞ!!」

ネストルとマウリッツは今にも掴み合わんばかりにお互い身を乗り出し、顔を付き合わせた。



 「二人共、落ち付け。
 私はすぐに城に戻る。
まず、すぐにも城から魔女を呼び、隊員の中に魔導師が潜んではおらぬか調べることにしよう。」

 「セ、セルギオス様!
 私の隊をお疑いですか!」

 「そういうわけではないが、私も先程のマウリッツの意見が気にかかる。
おまえは覚えていないだろうが、確か二十年程前だったか、ロージックの魔導師がトラニキアで捕らえられたことがあった。
 結局、どうやってこちら側に入ったのか口を割らせる前に自害してしまったからわからず仕舞いなのだがな…
つまり、結界も完全なものではないということだ。
それを機に結界はより強いものにされたが、また誰かそれを破ったものがおらんとは限らんからな。
それと、念のため、頂上の結界を確認してみようと思う。」



 「……そうですか。
では、マウリッツ、君が陛下について行き給え。
 私は隊員達にこの件について話して来る。
 暗くならないうちに行った方が良いのではないか?
 陛下、頂上はたいそう気温が下がりますし、空気も薄いです。
どうぞお気を付けて。」

 「あぁ、ありがとう、ネストル。
では、行こう。
……リガス、二人同時に運べるか?」

 国王の傍らに立っていた男は、穏やかな笑みを浮かべゆっくりと頷く。



 「では、国王陛下、マウリッツ様、お手を…」

リガスと呼ばれた男がそう言って二人の手を取った瞬間、三人の姿はその場所からかき消えた。

 
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