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微笑みに潜む悪意

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「そうだったのか……そりゃあ、不安だな。
 自分に関係する人のことだけじゃなく、この世界のこともすっかり忘れてるんだな…
 ……良いか、ディオ、世の中には特別な力を神から授かった人々がいる。
 『魔法』って覚えてるか?」

 「…う、うん、なんとなく……」

この世界での『魔法』がディオニシスの知っている『魔法』と同じかどうかわからないため、ディオニシスは曖昧な返事を返した。



 「その力を授かった者はごく一部だ。
それは血によって受け継がれる。
魔導師と呼ばれるその者達の大半は、国のために仕えている。
 彼らは、不思議な力で普通の者には出来ないことをやってのける。
 結界もその一つだ。
 結界とは…つまりは目に見えない壁のようなものだな。
 仕組みは俺にもわかってるわけではないが、とにかく、結界は魔導師にしか張ることは出来ないし、それをはずすことも出来ない。」

マウリッツの話を聞きながら、ディオニシスはそれが自分の世界の絵本やファンタジー映画で描かれているものとほぼ同じものだと理解した。



 「ディオ、トラニキアに入るのがどれほど大変なことかわかったか?」

ディオニシスは深く頷いた。



 「まぁ、入れるたってほんの少しだけだろうけど、それでもものすごい自慢になるな。
ロージックも少しくらいは見られるかな…」

 「ロージック…って隣の国のことだよね?
リンガーの者はロージックには入れないけど、君達みたいに無関係な者はいつだって行けるんじゃないの?」

マウリッツは、大きく息を吐き出し、ディオニシスの肩を軽く叩く。



 「ディオ、両国の間にはあの高くて険しいトラニキア山脈が横たわってるんだぞ。
ま、確かに海から行く方法はあるが、それも直行じゃない。
しかも、乗船の許可はなかなかおりない。
うんと北の方を回っていく方法もあるが、そこらは人も住まない氷に閉ざされた地域だ。
よほどのつわものじゃなけりゃ、命を落とすのが落ちだ。
そんなことまでして向こう側へ行く奴なんているもんか。
ほんの一握りの商人しかこっちと向こうを行き来はしていない。
おまえ達の国同士の喧嘩のせいで、皆、けっこう迷惑してるんだぜ。」

 「じゃ、じゃあ、こっち側の国の人間はめったなことではロージック側には行けないし、その逆も同じってことなのかい?」

 「その通りだ。」

 信じられないような重大な事実に対して、事も無げに答えるマウリッツに、ディオニシスは言葉を失った。 
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