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王子

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「な、な、なぜ、これがここに!?」

ディオニシスは早鐘を打つ心臓を押さえることが出来ず、ただ、呆然とカードをみつめるばかりだった。



 「カード?ディオニシス様、これは一体何のカードなのですか!?」

 「……お、教えてくれ!
 僕は…海岸に打ち上げられた時、どんな服装をしていた?
 他に、何か持ってるものはなかったか?」

ラビスに詰め寄るディオニシスの態度は尋常のものではなかったが、その原因についてラビスは見当もつかなかった。



 「ふ、服装と言われましても…
あなたが打ち上げられた時には上半身はほぼ裸であちこち酷く傷付かれておいででした。
ズボンもただの布切れのような状態で…そんな中でしたので、あの箱を持っておられたことが特別な事のように思えたのです。」

 「そのズボンはどうした?今、どこにある!?
……そうだ!僕は靴ははいてなかったか?」

 「い、いいえ、足は裸足だったと思います。
ズボンは、先ほども申した通り、ただぼろぼろでしたので、おそらくもう処分されたと思いますが……」

 「そうか……」

ディオニシスは、ラビスから腕を離し、その場にしゃがみこむ。



 「ディオニシス様!どうなさいました!?
ご気分でも悪いのですか?」

 「……大丈夫だ…
少しだけ休ませてくれ…」

そう言って俯いたディオニシスは、混乱する記憶に頭を痛めていた。
 妄想だと納得しかかっていたことが、急に現実味を帯びて来たのだ。
しかし、そうなると、今の状況が妄想だということにもなりかねない。
だからこそ、ディオニシスはカード以外にも「ダニエル」の記憶が妄想ではないという確証を探そうとしたのだが、残念ながらそういうものは何もみつからない。
そのことがまたディオニシスの心を混乱させた。



 (どういうことなんだ?
あの時老人からもらったカードがここにあるのはなぜなんだ??
だったら、僕はやはりダニエルなのか?
いや、そんな筈はない。
ここの人達は、僕のことをディオニシスだと言った。
 僕がダニエルだったら、皆が僕のことを知るはずがないんだから…
では、どうして、これが……)

ディオニシスは、答えの出ない問題に頭を抱え深く俯く。 
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