深淵に眠る十字架 The second

決意

３７

「ルーク…どうしたの？
 大丈夫？」

 「うるさいって言ってるだろ！
おまえにはもう用はない。帰れ！」

 心配そうに声をかけたサマンサを、ルークは激しい剣幕で怒鳴り付けた。




 「いやよ！
 私……ルークと一緒にいるわ。」

 「……おまえは本当に懲りない女だな。
あんな目に遭わされても、まだわからないのか！」

 「ええ、わからない！
 私、絶対にあなたを諦めない！」

 「そうか、それじゃあ…」

 振り返り、拳を振り上げたルークを、サマンサは唇を噛み締め涙で一杯の瞳でみつめた。
しばらくしてルークは意味ありげな笑みを浮かべ、そのまま拳を降ろした。



 「……そうか。わかったよ。
おまえは僕のことを絶対に諦めないんだね。」

 「ええ、そうよ！
 私…絶対にあなたを元のルークに戻してみせる！
あの頃の優しかったあなたに…」

サマンサの言葉に、ルークは苦笑いを浮かべた。



 「おまえは、子供の頃のまんまだね。
 頑固で勝ち気で…頑張ればなんでも出来ると思ってる…」

 「ルーク…」

 「……少し休んだら出発するぞ。」

 「出発って……どこへ…？」

 「僕の家族の所だ。
 偽物じゃない、本当の家族のね…」

 「本当の……家族…？」



 ＊



 「まだ少し腫れてるけど、朝よりはずいぶんマシになったな。
これからは顔は殴らないようにしないとね…」

ルークは、そう言いながら、サマンサの瞼を優しく撫でた。



 「私なら大丈夫よ。
そんなことより、ルーク、どうして馬車に乗らなかったの？
 今夜もこの町に泊まるつもりなの？」

 「だって、宿賃を払ったら路銀がなくなったんだもの。」

 「私、少しなら……」

サマンサが、袋の中から取り出した財布を、ルークは引っ手繰るように奪い取る。



 「これは僕が預かっておくよ。
 家族の所まではまだずいぶんかかるからね。
どんなことがあるかわからない。
この金はそういう時のためにとっておいて、しばらくは、働きながら旅を続けよう。」

 「それは良いわね！
 私、何か仕事を…」

ルークは、サマンサに向かって首を振り、奇妙な薄ら笑いを浮かべた。



 「サマンサの仕事ならもう決めてあるんだ。
さ、行こう…」

 「え…？決めたって…」

 「いいから、いいから。」

ルークは、サマンサの腕を掴むと、裏通りの盛り場へ連れ出した。