深淵に眠る十字架 The second

復讐の連鎖

９７

「無理しなくて良いんだぞ。
 今、全部話さなくても…」

 「いや…聞いてくれ、アズラエル…
 ………オルジェスは俺の目の前で、ルキティアを辱めた。
ルキティアは必死で俺の名を呼び、助けを求めた……なのに、俺は……俺は……」

トレルの声が、涙で途切れた。
トレルは、片手で顔を覆い何度も何度も首を振る。



 「トレル…辛かったな…しかし、そんな酷い怪我を負わされて、あんなに縛り上げられていたんだ。
 私だって、あんな状態だったら何も出来やしない。」

 「死んでしまいたかった…！
ルキティアを助けてやれない自分が情けなくて、死んでしまいたかった…
 ……オルジェスがやっとルキティアから離れたと思ったら、今度はルークがルキティアに跨った。
 俺は気が狂いそうだった…
あいつは、オルジェスよりも酷かった。
ルキティアが俺の名を叫ぶ度に、彼女の顔面を拳で殴りつけた。
 容赦なく…
あれが、俺の知ってるあのルークだとは…とても思えない。
 奴らは、代わる代わる、ルキティアを慰み者にして…そして……
オルジェスが…オルジェスが…ルキティアの胸に……」

トレルは身体を震わせ、尋常ではない奇声をはり上げ、狂ったように暴れ始めた。



 「トレル！しっかりしろ！
トレル！！」

 声をかけ、身体を抑えつけようとしても、異常な力で暴れようとするトレルに、アズラエルの平手が飛んだ。



 「トレル…！！
しっかりするんだ！
……もう何も怖くない…
私が傍にいるから…大丈夫だ、トレル…」

アズラエルは、トレルの震える身体を強く抱きしめた。



 「アズラエル……
お…俺は…二度も……
二度も愛する女を目の前で殺された…
そして、俺はその二度とも何も出来なかった…
 ………オルジェスは……ルシファーよりも酷かった。
ルキティアを殺しただけではなく……し…心臓を……
彼女の心臓をえぐりとって……それを……」

 「もう良い…トレル…」

トレルはアズラエルの胸にすがり、子供のように泣きじゃくる。
トレルの熱い涙を感じながら、アズラエルはその涙が枯れるまで、ずっとトレルの背中をさすり続けた。