深淵に眠る十字架 The second

復讐の連鎖

５９

＊



 「オルジェス…具合はどうだ…？」

その声に、オルジェスはゆっくりと重い瞼を開いた。



 「……ルキ…ティア……」

 「ベルナールからあんたの介抱を頼まれた。
さぁ、私の血をすすれ。」

ルキティアは自分の腕を傷付け、オルジェスの口に押し当てる。



 「ルキティア様！なんてことを…！」

オルジェスについていた使用人が、驚きの声を上げた。



 「良いんだ、こいつは特別なんだよ。
オルジェス…あんたには早く元気になってもらわないと困るんだ。
たくさんお飲み…
あたしの血は滋養がつくよ…」

オルジェスはルキティアにされるがままに、彼女の血をすすった。

ルキティアは使用人をも下がらせると、毎日、献身的にオルジェスの介抱にあたった。



 ＊



 「オルジェス…あんたの兄さんはなんで来ないんだ！？
あれからもう十日近くも経ってるっていうのに…なんで…」

 「そんなこと言ったって…
俺にはわからないよ。」

 「本当にベルナールには決まった女はいないんだね？！」

 「あぁ、いないったらいない！
 何度もそう言っただろう！」

ここ数日、二人の間では似たような口喧嘩が毎日繰り広げられていた。
ルキティアは最初のうちは意外な程穏やかにオルジェスの世話をしていたが、一向に姿を見せないベルナールに、だんだんと激しい苛立ちを募らせていった。



 「ずいぶん元気になったようだな…」

 不意に響いた低い声にルキティアは振り返り、まるで子犬がじゃれつくようにベルナールの元に駆け出した。



 「ベルナール！酷いじゃないか！
こんなに長い間、私をほっぽりだして…」

 泣き声にも似た声でルキティアはそう叫ぶと、ベルナールに抱きつき濃厚な口付けを繰り返した。