深淵に眠る十字架 The second

再会

８

「実はな…」

ランディに聞いた通り、最初の数年間はランディの家で、皆、仲良く暮らしていたとのことだった。
ランディの結婚を機に、イアンとトレルはオルジェスを連れて村外れに引っ越した。
それからしばらくした頃、オルジェスに変化が出て来た。
ルークやサマンサと同じ年のオルジェスは、急に成長が早くなったのだという。



「六つか七つのあたりから特にそうなった。
だから、オルジェスは学校にもやらなかったんだ。
うちは貧乏で学校にはやれないんだといって納得させ、勉強はイアンに見てもらった。
それが、オルジェスにはとても悲しかったようだ。
サマンサやルークとは兄弟みたいに育って来たからな…
二人が学校に行ってる間、奴は寂しかったんだな、きっと…
俺やイアンがいるから大丈夫だと思ってたのが間違いだった。」

それから、オルジェスは年を重ねるごとに自分だけ身体が大きくなる事に疑問を抱き出したという。
人の成長は皆同じではないといいくるめたが、オルジェスとルーク達の違いはどんどん大きくなる。
そのうち、オルジェスはルーク達に会うのをいやがるようになり、それをきっかけに村を出ることにしたということだった。



「私のこともあるんですよ。
この通り、私はまるで年を取りませんから、一所に長くいるわけにはいかないのです。」

「そうだったのか…
それで、オルジェスは今どこに？」

「……わからん…」

「わからん？どういうことだ？！」

村を出てしばらくした頃、トレルはオルジェスに母親のことを話した。
母親が悪魔だということを知ったオルジェスは、心に大きな傷を負ったらしく、しばらくは荒くれた生活をしていたが、その後姿を消したと言う。



「もう奴がここを出て行って四年近くになる…
一体、どこでどうしているのか、皆目わからないんだ…」

「そうだったのか…
あんたもいろんな苦労があったんだな…」

「でも、ランディはそんなこと何も言ってなかったぞ。」

「ランディには何も言ってない。」

「この前、ランディさん達がここに来られた時も、ちょうど二人は遠くの町に行ってると嘘を吐いたのです。
私がランディさんの所に出向き、トレルとオルジェスは元気だと伝えておいたのですが、行くのは私ばかりでトレルやオルジェスが顔を見せないから、ランディさんが来られたのだと思います。
幸い、ランディさんはお仕事がお忙しいようですから、めったには来られないのですが、いつかはバレるだろうと思ってはいます。」