ニシア

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ルベルマ平原

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カキミアの花が咲き始める。ピシャッと蕾が開くその音は街中に響き渡り、春の訪れを告げる。息を吹き返すかのように、色彩を取り戻した世界は旅立を祝福してくれているように思えた。

「持ち物は全て揃ったな」

「私も必要なものは入れたよ」

甕は画材を中心に、雀刹那は商売用品を馬車に積めていく、甕は連載を抱えているため、馬車を希望した。
馬車は山越えなど、整備されていない道を嫌うが、寝泊まりにもいいだろう。甕は馬の扱いが上手く、暴れ馬も気を許すほどだった。元の世界で描いていたマンガと言われる台詞の入った絵が印象的である。試しに俺を描いてもらうと、美系過ぎて恥ずかしくなった。

雀那はお店屋さんごっこが好きらしく、家の庭先でフルーツティーを売らせてみたところ、評判がよく旅でもさせてみようと思う。

俺は食料や日用品を、馬車に載せるとティアナを待っていた。

「遅れてすみません」

「それだけでいいのか?」

「ええ、これだけしかなくて」

ティアナはギターを大事そうに抱えている。楽器は自分の分身とも言えるものだ。俺は馬車の一番揺れないと思われる所にギターをそっとおいた。

「なにをしてるの?」

「蹄を確認してる。蹄鉄を変えたばかりだからな」

「甕、馬の機嫌は」

「緊張してるけど、走れなくはないと思う」

「俺は二度蹴られたぞ…」

「馬にもプライドがある。この馬は特に」

甕は、馬にそっとブラシをかける。馬は落ち着きを取り戻し、目を閉じているようだった。

「なんかショックだ」

甕は笑いながら、そのうち慣れるよと呟く。毎日世話をしているのは、俺なのだがいつ慣れるのだろう。

「キーオ、馬の服はちゃんとある?」

ティアナは俺のことをキーオと呼ぶ。紅茶ばかり飲んでいるからだろうか…俺は茶葉ではない「笑」

「ちゃんと買ってあるよ、雨が降ったら大変だもんな」

「父上~闇の豚目録がない」

「その辺にないか」

「甕姉が読んでる」

「雀那、巻末コメント載ってるじゃん」

「手紙出してたもんな」

「インタビュー記事まである」

「え」

俺は本を貸してもらい読むと、紛れもなく雀那である。作者と作品の世界観を語る内容に唖然とする。

「いつの間に…」

「えっへん」

えっへんではない、しかし、闇の豚目録とはディープな本だなと思う。作者もいかつい、こんな人が描いてるとは思えないが…、雀那に取材おめでとうと伝え、取材の時は一言話すように伝える。雀那の心はまだ子供なのだ。最近はワンマンに拍車がかかり行動が読めない。

「全員乗ったか?」

甕の掛け声と共に馬が進み始める。馬車の後ろから
街をじっと見つめる。遠ざかっていく街に想いを馳せると浮かぶのはリタのことばかりだった。

「雀那ちゃんそれはなに…」

「これはオカグマの剥製、これは冬毛」

「剥製…」

「夏毛が欲しかったけど、売ってなかった」

ティアナは「キャ~~」と悲鳴をあげ馬車から降りようとしている。

「それをしまって」

「可愛いのに」

雀那にオカグマの剥製を撤収させ、事なきを得るが
ティアナは剥製が側にあるだけで気分が悪いと言う。

「誕生日には農耕馬がほしい」

「馬はいるじゃないか」

「あの屈強な足、まるまる太った体、素敵に違いない」

「餌はどうするんだ、お金かかるぞ」

「草を食わせる。草ならたくさんある」

「草だけじゃ、痩せるんじゃないか」

「農耕馬は伊達じゃない」

どこの世界に誕生日に、農耕馬を欲しがる少女がいるだろう。遊び道具やアクセサリー等を、ねだるなら分かるが、馬…自分の娘ながら末恐ろしい。収穫祭の時は、願い事をするのだが、エッファフシャークになると、集まった多くの人の前で宣言していた。船を丸呑み、するサメに娘をさせたくない。雀那をみていると色々なことを俺に教えてくれているようだ。

「ジルス、ルベルマ平原の方へ行くのか」

「ああ、これだけの荷だ。遠回りになるが」

「夜にはユレミタキが見れますね」

「ティアナ詳しいんだな」

「暗闇に集まり光を放つ小さい虫です。この地方でしか見られません」

「そこでキャンプにするか」

「ふむふむ、一匹40レインとして、出張サービスを入れて」

「売るきだな」

「雀那ちゃん乱獲はいけませんよ」

「乱獲はしない、たくさんは取る」

ティアナは意味を説明すると、「どうして?攻撃」が始まった。ティアナは優しく最初は説明していたが、だんだん鼻息が荒くなってきた。雀那を説得するにはコツがいるので、俺が仲裁に入る。

「なんだ、また聞いてるのか?」

「甕姉は黙ってて、ユレミタキの危機だ」

俺はお話風に、ユレミタキの物語を作り聞かせる」

「ユレミタキお金に苦しんでたのか…」

「そうだよ、虫の世界も大変なんだ」

二人は笑うのを必死に堪えている。ティアナが俺を叩くが痛い。

「ユレミタキは長老がいるんだ。酒飲みでな」

「それで」

甕が余計なシナリオを作る。下手なのでやめて欲しい。

「甕姉も父上も騙した。ふん」

「まて、今連絡が入った」

「!」

「父上緊急なのか!」

「一大事だ。川に羽の生えた虫が飛んでいる」

二人はツボに入ってしまったのだろう、酷い笑い様だが、俺は真剣に雀那に話を続ける。

「ついたぞ」

「見渡す限り、草原だな」

「秋にはこの一帯が赤く紅葉するんです」

「ユレミタキいない、ティア姉も嘘ついた。」

「ユレミタキは夜になったら出てくるぞ」

雀那は疑いの眼差しで俺を見る。

「雀那ここにおいで」

「きた」

「今あることを大切にしなさい」

「どういうこと」

「人も自然もいつか終わりがくる。大事にしないとな」

「うん」

俺は、平原を流れる川に雀那を、案内すると川の石をめくって雀那にみせる。

「空を飛んでる羽の生えた、虫の小さい姿だよ」

「薄っぺらい」

「馬車に釣りざおがあったろ、もっておいで」

雀那は釣りざおを持ってくると、俺は釣り方を教える。

「針に餌をつけないの?」

「重りを調節しているんだ。こんなもんだろう」

「ていや~」

針に川虫をつけてあげると、雀那は勢いよく竿を振る。

「父上~釣れない」

「魚の気持ちになってごらん、変な所に流れた餌は食べないんだ」

「ふむ」

「上流に投げたら竿を沈ませて、糸の流れをみて上げる」

「ほほぉ」

「お!食いついたぞ」

「サメかな」

大きなカワオトキが釣れた。雀那はとても嬉しそうだ。川にも魚がいて虫を食べる。言葉で教えるのは簡単だが、実際に体験しないと分からないこともある。雀那は生き物が好きだ。将来魔王となってもこの事は忘れないでほしいと、願うばかりだった。

「どんどん釣れる」

「ほどほどに、しておきなさい」

「帰り道、バケツからカワオトキが跳ねて外にでると
「まてまて」と雀那がそれを追う。バケツには四人分の魚をいれてあったが、少し小さかったようだ。

「どこに行ってたんだ。心配したんだぞ」

「甕姉、魚は虫を食べるんだ」

「釣ったのか、私も連れてけよ~」

「偉い」

ティアナが雀那の頭を撫でる。得意気にカワオトキを持ち上げている。

焚き火を起こし、鍋をおいて夕食作りに取り掛かる。
魚を捌くのは不人気で、俺が担当することになった。

「雀那、そんなに皮を剥いたら食べるところが」

「これが覚醒した姿」

「甕さん、芽を取らないと毒があるので…」

「甕姉…」

「そんな目でみるな~」

果たして、無事料理は完成するのだろうか…俺は魚を
捌くカワオトキは、油も乗っていて川魚特有の臭みもない為、切り身にし鍋に入れようと思う。

切り身を三人に手渡すと、俺は焚き火を眺め紅茶を飲む。ティアナが焚き火の側にきた。

「木のいい香りがする。ロクを燃し木に使ったのか」

「ええ、雀那と甕は煙になれてないから」

「火力も充分なようだし、助かるよ」

「キーオ旅に、連れてきてくれてありがとう」

「旅の行く末はどうなるか分からない、異人とも戦うだろう。それに俺は強くない…」

「そんなことない」

ティアナは焚き火をじっと見つめ、自らの過去を話し始めた。

「あのギターはね、城を逃げ出した私が初めて買ったものなの、最初から壊れてて、音を合わせてもすぐに狂ってしまう。私と重ていたのかも知れない…直したくてもお金は食事に消え、永遠にギターは直せないと思った。そんなときキーオに出会ったの」

「永遠じゃなかった」

「そうね」

ティアナは目に手をあて、涙を拭っている。

「お嬢さん、これを飲みな」

「雀那~」

ティアナは雀那を強く抱きしめる。夕日に照らされ
眩しくうつる二人の姿に、俺はダンとリタを思い出す。「やっとここまできたよ」風が強く吹いた気がした。

「雀那~こっちにこい二人の邪魔をするな」

「甕姉教え方下手」

「お前も鍋にするぞ、ポカ」

「父上~甕姉がぁ~」

「あはは」

夕食は、魚介スープと言ったところか。不揃いだが
味には関係ない、皆で作った料理とは良いものだなと
感極まる。

「父上どうかしたの?」

「いや、花粉が酷くてな」

甕が雀那に耳打ちをする。

「辛いこともある、そんなときはクマを撫でる」

「刹那ちゃん、それは置いておこう。火の近くだし」

「この冬毛、もっふもふだ。世界はこれに跪く」

「ティア姉も触ってみろ、ゴワゴワだ」

「どっちなんだよ「笑」
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