49 / 50
第一章
第12話(4)ミュズィックデレーヴ対トロイメライ
しおりを挟む
「なっ……」
「こ、これは……」
「……あのお嬢様と執事がしくじったのはまあ想定内だとして、フェーズ、ハート、これは一体全体どういうことさ?」
ドリームが陽炎と現の姿を見て、フェーズとハートを睨む。
「い、いや、えっと……」
「た、確かにとどめは刺さなかったが……」
ハートとフェーズがそれぞれ頭を抱える。
「刺しなよ」
「も、問題ないと思ったんだ!」
「そ、そうだよ!」
フェーズの言葉にハートが同調する。
「……問題が発生しているじゃないのさ」
「そ、それは、すまない……」
「め、めんご……」
「はあ……まあ、しゃあないね……まとめて片付けるとするか……」
ドリームがため息交じりに呟き、現たちの方に向き直る。
「大島たちはどうした?」
「気を失ってしばらくしてから消えたよ、霧消したわけじゃなくてね」
現の問いに刹那が答える。
「ふむ……それならばまあ、特に心配は要らないか……」
現が腕を組んで頷く。
「……しかし、よく立ち上がれたわね、二人とも……」
幻が陽炎と現の方を見て呟く。
「いやあ……」
陽炎が自らの後頭部をポリポリと掻く。
「倒れているのを見たときもう駄目かと思っちゃったよ。なにかしたの?」
「いいや、特別なことは何もしていないさ」
刹那の問いに現が首を左右に振る。幻が重ねて問う。
「では、どうして……?」
「それはもちろん……」
「根性だぜ!」
「全然違う」
陽炎の答えを現が即座に否定する。
「ええっ⁉」
陽炎が驚く。
「では、答えは……?」
幻があらためて問う。現がやや間をあけてから答える。
「……信頼の為せる業だ」
「信頼?」
刹那が首を傾げる。
「……そうだろう?」
「……ええ……まったくその通りですわ……」
甘美がゆっくりと立ち上がる。
「なっ⁉」
それを見たドリームが驚く。
「お互いの信頼がなければバンドというものは成り立たない……強い信頼こそが力を与えてくれるのですわ……」
「な、なにをオカルトじみたことを……!」
「ふっ……」
「な、なにがおかしいのさ!」
「こんな夢世界でそんなことを言いますか?」
「そ、それもそうね……」
ドリームが首を縦に振る。
「お、おい! しっかりしろ!」
「相手に乗せられちゃってどうするのよ!」
フェーズとハートがドリームを諭す。
「はっ! あ、危なかった……」
「……甘美ちゃん、大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫ですわ」
幻の問いに甘美が頷く。幻が笑みを浮かべる。
「それならいいけど」
「では、この五人……『ミュズィックデレーヴ』がお相手しますわ!」
甘美たちがドリームたち、トロイメライの方に改めて向き直る。
「ど、どうする?」
ハートがドリームに問う。
「ちっ……こっちだ!」
ドリームが走り出す。
「お、おい!」
フェーズとハートが慌ててその後に続く。
「お、お待ちなさい! 皆さん、行きますわよ!」
甘美が声を上げ、五人がトロイメライを追いかける。
「着いた……」
「こ、ここは……?」
甘美たちは広い空間に出る。
「出でよ!」
ドリームが指をパチンと鳴らす。すると、大きな影が現れる。
「あ、あれは……!」
「この夢世界のボスだよ……」
ドリームが笑みを浮かべながら告げる。
「ボ、ボスも呼び寄せられるのか⁉」
現が驚く。
「さあ、こいつに勝てるかな⁉ ミュズィックデレーヴ!」
「トランポリンさん! 貴女方の挑戦、受けて立ちますわ!」
「ト、トロイメライだよ!」
ドリームが声を上げる。甘美が自らの後頭部を抑える。
「な、なんだか覚えにくくて……」
「そっちよりは遥かに覚えやすいだろうが! ま、まあいい! やってしまえ!」
ドリームが影を促す。
「……」
「むっ……」
「……ここは聖なる場所……」
「しゃ、喋った⁉」
「そういう影も中にはいるって話だったろ、セットゥーナ……」
驚く刹那を陽炎が落ち着かせる。幻が首を捻る。
「聖なる場所……?」
「……騒音などまかりならん……」
「ふっ、なるほど……」
「分かったのか、甘美?」
笑って頷く甘美に現が尋ねる。
「この大学のOGの方々でしょう……」
「オ、OG?」
「騒音かどうか、わたくしたちの奏でる音を聴いてから判断してくださいまし!」
「……!」
甘美がマイクをさっと取り出す。それを見て、現たちもすぐさま楽器を構える。
「皆さん、行きますわよ! 1、2……1、2、3、GO!」
「~~♪」
「こ、これは……!」
影が霧消していく。ドリームが驚く。
「ば、馬鹿な……あの規模の影をあっさりと霧消させやがるとは……」
「霧消ではありません……強いて言うなれば“浄化”です」
「じょ、浄化だと?」
「ええ、そうです。わたくしたちの音楽を聴いて理解を示してくださったのでしょう……」
「ふ、ふん! それならば! アタイたちが直接やってやる! 食らえ!」
「!」
ドリームがヴァイオリンを出現させ、音を奏でる。音の圧で甘美たちがのけぞる。
「追い打ちをかけるよ!」
「‼」
ハートがユーフォニアムを出現させて吹く。響く音の勢いで甘美たちがよろめく。
「よし、とどめだ!」
「⁉」
フェーズがティンパニを出現させて鳴らす。音の揺れに甘美たちが膝をつく。
「膜鳴楽器の振動をその身をもって味わったか? ……なにっ⁉」
フェーズが驚く。甘美たちが立ち上がったからである。ハートも驚く。
「た、立ち上がった……⁉」
「……個々の演奏レベルは大したものですが……アンサンブルがなっていませんわね……」
「なんだと⁉」
「お手本を示して差し上げますわ! 皆さん行きますわよ!」
甘美がマイクを持ち直す。四人も楽器を構え直す。ドリームがフェーズたちに声をかける。
「落ち着け! やつらの曲ならすべて知っている! 一旦耐えて、やり返すぞ!」
「~~~~~♪」
「なにっ⁉ こ、この曲は……!」
トロイメライがその場に膝をつく。ミュズィックデレーヴの奏でる音の圧に耐え切れなかったためである。歌い終わった甘美が微笑む。
「……いかがだったかしら、わたくしたちの新曲は?」
「し、新曲⁉ ど、道理で聴いたことがないわけだ……」
「……ようやく思い出しましたわ。貴女方、わたくしたちのライブによく足を運んで下さった三人組ですわね。いつも後ろの方で腕を組んで曲を聴いてくださっていたわね……五人になってからも……熱心なファンの方々だったのですわね……」
「ファ、ファンじゃない! 厳島甘美! 夢世界へ出入り出来るお前のことが必要だったんだ! だ、断じて、お前らの曲に魅了されたからではないんだぞ! 今回はやられたが、次のライブも楽しみにしている……じゃなくて、次こそはお前をアタイらのものにする!」
「あらら、消えてしまいました……とりあえず戻りましょうか?」
トロイメライが消え、甘美たちも元の世界へと戻る。
「こ、これは……」
「……あのお嬢様と執事がしくじったのはまあ想定内だとして、フェーズ、ハート、これは一体全体どういうことさ?」
ドリームが陽炎と現の姿を見て、フェーズとハートを睨む。
「い、いや、えっと……」
「た、確かにとどめは刺さなかったが……」
ハートとフェーズがそれぞれ頭を抱える。
「刺しなよ」
「も、問題ないと思ったんだ!」
「そ、そうだよ!」
フェーズの言葉にハートが同調する。
「……問題が発生しているじゃないのさ」
「そ、それは、すまない……」
「め、めんご……」
「はあ……まあ、しゃあないね……まとめて片付けるとするか……」
ドリームがため息交じりに呟き、現たちの方に向き直る。
「大島たちはどうした?」
「気を失ってしばらくしてから消えたよ、霧消したわけじゃなくてね」
現の問いに刹那が答える。
「ふむ……それならばまあ、特に心配は要らないか……」
現が腕を組んで頷く。
「……しかし、よく立ち上がれたわね、二人とも……」
幻が陽炎と現の方を見て呟く。
「いやあ……」
陽炎が自らの後頭部をポリポリと掻く。
「倒れているのを見たときもう駄目かと思っちゃったよ。なにかしたの?」
「いいや、特別なことは何もしていないさ」
刹那の問いに現が首を左右に振る。幻が重ねて問う。
「では、どうして……?」
「それはもちろん……」
「根性だぜ!」
「全然違う」
陽炎の答えを現が即座に否定する。
「ええっ⁉」
陽炎が驚く。
「では、答えは……?」
幻があらためて問う。現がやや間をあけてから答える。
「……信頼の為せる業だ」
「信頼?」
刹那が首を傾げる。
「……そうだろう?」
「……ええ……まったくその通りですわ……」
甘美がゆっくりと立ち上がる。
「なっ⁉」
それを見たドリームが驚く。
「お互いの信頼がなければバンドというものは成り立たない……強い信頼こそが力を与えてくれるのですわ……」
「な、なにをオカルトじみたことを……!」
「ふっ……」
「な、なにがおかしいのさ!」
「こんな夢世界でそんなことを言いますか?」
「そ、それもそうね……」
ドリームが首を縦に振る。
「お、おい! しっかりしろ!」
「相手に乗せられちゃってどうするのよ!」
フェーズとハートがドリームを諭す。
「はっ! あ、危なかった……」
「……甘美ちゃん、大丈夫なの?」
「ええ、大丈夫ですわ」
幻の問いに甘美が頷く。幻が笑みを浮かべる。
「それならいいけど」
「では、この五人……『ミュズィックデレーヴ』がお相手しますわ!」
甘美たちがドリームたち、トロイメライの方に改めて向き直る。
「ど、どうする?」
ハートがドリームに問う。
「ちっ……こっちだ!」
ドリームが走り出す。
「お、おい!」
フェーズとハートが慌ててその後に続く。
「お、お待ちなさい! 皆さん、行きますわよ!」
甘美が声を上げ、五人がトロイメライを追いかける。
「着いた……」
「こ、ここは……?」
甘美たちは広い空間に出る。
「出でよ!」
ドリームが指をパチンと鳴らす。すると、大きな影が現れる。
「あ、あれは……!」
「この夢世界のボスだよ……」
ドリームが笑みを浮かべながら告げる。
「ボ、ボスも呼び寄せられるのか⁉」
現が驚く。
「さあ、こいつに勝てるかな⁉ ミュズィックデレーヴ!」
「トランポリンさん! 貴女方の挑戦、受けて立ちますわ!」
「ト、トロイメライだよ!」
ドリームが声を上げる。甘美が自らの後頭部を抑える。
「な、なんだか覚えにくくて……」
「そっちよりは遥かに覚えやすいだろうが! ま、まあいい! やってしまえ!」
ドリームが影を促す。
「……」
「むっ……」
「……ここは聖なる場所……」
「しゃ、喋った⁉」
「そういう影も中にはいるって話だったろ、セットゥーナ……」
驚く刹那を陽炎が落ち着かせる。幻が首を捻る。
「聖なる場所……?」
「……騒音などまかりならん……」
「ふっ、なるほど……」
「分かったのか、甘美?」
笑って頷く甘美に現が尋ねる。
「この大学のOGの方々でしょう……」
「オ、OG?」
「騒音かどうか、わたくしたちの奏でる音を聴いてから判断してくださいまし!」
「……!」
甘美がマイクをさっと取り出す。それを見て、現たちもすぐさま楽器を構える。
「皆さん、行きますわよ! 1、2……1、2、3、GO!」
「~~♪」
「こ、これは……!」
影が霧消していく。ドリームが驚く。
「ば、馬鹿な……あの規模の影をあっさりと霧消させやがるとは……」
「霧消ではありません……強いて言うなれば“浄化”です」
「じょ、浄化だと?」
「ええ、そうです。わたくしたちの音楽を聴いて理解を示してくださったのでしょう……」
「ふ、ふん! それならば! アタイたちが直接やってやる! 食らえ!」
「!」
ドリームがヴァイオリンを出現させ、音を奏でる。音の圧で甘美たちがのけぞる。
「追い打ちをかけるよ!」
「‼」
ハートがユーフォニアムを出現させて吹く。響く音の勢いで甘美たちがよろめく。
「よし、とどめだ!」
「⁉」
フェーズがティンパニを出現させて鳴らす。音の揺れに甘美たちが膝をつく。
「膜鳴楽器の振動をその身をもって味わったか? ……なにっ⁉」
フェーズが驚く。甘美たちが立ち上がったからである。ハートも驚く。
「た、立ち上がった……⁉」
「……個々の演奏レベルは大したものですが……アンサンブルがなっていませんわね……」
「なんだと⁉」
「お手本を示して差し上げますわ! 皆さん行きますわよ!」
甘美がマイクを持ち直す。四人も楽器を構え直す。ドリームがフェーズたちに声をかける。
「落ち着け! やつらの曲ならすべて知っている! 一旦耐えて、やり返すぞ!」
「~~~~~♪」
「なにっ⁉ こ、この曲は……!」
トロイメライがその場に膝をつく。ミュズィックデレーヴの奏でる音の圧に耐え切れなかったためである。歌い終わった甘美が微笑む。
「……いかがだったかしら、わたくしたちの新曲は?」
「し、新曲⁉ ど、道理で聴いたことがないわけだ……」
「……ようやく思い出しましたわ。貴女方、わたくしたちのライブによく足を運んで下さった三人組ですわね。いつも後ろの方で腕を組んで曲を聴いてくださっていたわね……五人になってからも……熱心なファンの方々だったのですわね……」
「ファ、ファンじゃない! 厳島甘美! 夢世界へ出入り出来るお前のことが必要だったんだ! だ、断じて、お前らの曲に魅了されたからではないんだぞ! 今回はやられたが、次のライブも楽しみにしている……じゃなくて、次こそはお前をアタイらのものにする!」
「あらら、消えてしまいました……とりあえず戻りましょうか?」
トロイメライが消え、甘美たちも元の世界へと戻る。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる