【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
43 / 50
第一章

第11話(2)新曲合成

しおりを挟む
「ええ」

 甘美が頷く。

「い、いや……」

 現が唖然とする。

「? どうかしたのですか?」

「し、新曲だと?」

「ええ、そう言いましたが」

「い、今から間に合うわけがないだろう……」

「いいえ、それがどうしてなかなか……」

「なかなか?」

「順調に進んでいますわ」

「じゅ、順調だと?」

「ええ、こう……降りてきています……」

 甘美が両手を掲げて、ゆっくりと下ろす。

「降りてきているって……なにがだ?」

「作曲の神様が」

「バカも休み休み言え……」

 現が呆れる。甘美が頬を膨らませる。

「バカとはまた随分な言われようですわね」

「そう言いたくもなる……」

「良いですか? 今回のライブはわたくしたち、ミュズィックデレーヴにとってターニングポイントのライブとなるはずです」

「ターニングポイントだと? なにを根拠に……」

「なんとなくですわ!」

 甘美が両手を腰に当てて、胸を張る。

「アホか……」

「こ、今度はアホって言われた⁉」

「だからそう言いたくもなるだろう……」

「この重要なライブで、新曲を披露したらインパクトは大きいでしょう」

「一応反論しておくか……」

「なんですの?」

「私たちにはひとつひとつのライブが重要なはずだ」

「ふむ、それはそうですわね……」

 甘美が頷く。

「矛盾する言い方かもしれないが、今回のライブにそこまで肩肘を張ることはない。今から新曲を無理して準備しなくても既存の曲で充分なはずだ」

「まあ、正論ではあるかもしれませんわね……」

 甘美が顎に手を当てて呟く。

「正論は言い過ぎかもしれないが、概ね間違ったことは言っていないはずだ」

「ところがどっこい!」

「ど、どっこい?」

 現が面食らう。

「この音源を聴いてみてくださいな!」

 甘美が端末を取り出して、音源を再生する。

「~~~♪」

「!」

 音源を聴いて四人の顔色が変わる。

「こ、これは……」

「陽炎さん、いかがですか?」

「ああ、そこそこ良いんじゃねえか?」

 陽炎が呟く。

「刹那さんは?」

「な、なかなか良いんじゃないかな……」

 刹那が頷く。

「幻さんはどうでしょうか?」

「……まあまあなんじゃないの?」

「ふむ、お三方からの評価はそこそこ、なかなか、まあまあ……なるほど、なるほど……現場からは以上です!」

「全員、漠然とした評価じゃないか!」

 現が声を上げる。

「現はどうでしたか?」

「……ぼちぼちだな」

「! あ、あら……? おかしいですわね。もっとこう、スタンディングオベーションが巻き起こると思いましたのに……」

 甘美が首を捻る。

「なんというか……」

「なんというか?」

「無難な出来だな……」

「ぶ、無難⁉」

「過不足ないというか……」

「過不足ない⁉」

「インパクトには欠けるんじゃないか……?」

「お、お言葉ですが……無難というのが一番難しいのですのよ?」

「さっきも陽炎から似たようなこと言われたな……」

「だって難が無いのですよ、それは結構なことではありませんか」

「ターニングポイントのライブで披露するにはちょっとな……」

「な、ならば、こちらはいかがです⁉」

 甘美が端末を操作する。別の音源が流れる。

「~♪」

「‼」

 四人の顔色がまた変わる。甘美が尋ねる。

「い、いかがですか⁉」

「わりと良いんじゃねえか?」

「わ、わりと⁉」

 陽炎の言葉に甘美が面食らう。現が問う。

「……甘美、この曲はいつ思い付いた?」

「26時頃ですわ」

「深夜のテンション! どうりで展開が無茶苦茶だと思った……」

 現が頭を抱える。

「そ、それならば、こちらは⁉」

 甘美が再び端末を操作する。また別の音源が流れる。

「~~♪」

「⁉」

 四人の顔色がまたまた変わる。甘美がまた尋ねる。

「い、いかがでしょう⁉」

「……それなりに良いんじゃないの?」

「そ、それなりに⁉」

 幻の答えに甘美が戸惑う。現が再び問う。

「ちなみにこの曲はいつ思い付いた?」

「ティータイムの時に、鼻歌まじりで……」

「優雅だな! どうりで力が抜けていると思った……」

 現が額を抑える。

「……」

「せ、刹那さんはどうでしょうか?」

 黙っている刹那に甘美が尋ねる。

「……三曲を組み合わせたら良い感じになるんじゃないかな?」

「ええっ⁉」

 甘美が驚く。

「ああ、それは良いかもしれないわね」

「そうでしょ?」

 頷く幻に刹那が笑顔を向ける。

「現ちゃんもそう思わない?」

 幻が現に尋ねる。

「無難な一曲目のインパクトの弱さを二曲目で補い……」

「そう、しっちゃかめっちゃかになったところを……」

「三曲目で落ち着かせるという感じか」

「ええ、そういうこと」

 現の言葉に幻が頷く。

「イントロは静かに入って、サビに向けて盛り上げていく感じか」

「うん、そんな感じだね」

 陽炎の呟きに刹那が反応する。

「そ、そんなキメラみたいな曲に……」

 甘美が困惑する。

「なんとなくだけど……視えてきたわね」

「ああ、ヴィジョンがな」

 幻の発言に陽炎が反応する。

「おぼろげではあるけれどね……」

「いや、イメージが共有出来ているのは大きいぞ」

 呟く刹那に対し、現が頷く。

「わ、わたくしだけヴィジョンもイメージもシェア出来ていないのですが⁉」

 甘美が声を上げる。現が三人に尋ねる。

「詞はどうする?」

「オレは情熱的なのが良いと思うぜ!」

「アタシは知性的なのが良いと思うわ……」

「ボクは普遍的なのが良いのかなって……」

「よし、詞は合作で行こう。うん、方向性はまとまったな」

「全然バラバラだと思いますが⁉」

「楽器は持ってきているな? ステージには立てる。今日は雰囲気だけでも感じておこう」

「わ、わたくしを無視して話を進めないでくださる⁉ むっ⁉」

「zzz……」

 カフェテリアだけでなく、その周囲の人たちも皆眠りについてしまった。

「こ、これは……⁉ まさか大学全体が夢世界に⁉ 皆さん、行きますわよ!」

「……!」

 甘美の掛け声に応じ、四人も眠りに入る。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【第一章完】四国?五国で良いんじゃね?

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 これは遠い未来にあり得るかもしれない世界。  四国地方は文字通りーーかつての時代のようにーー四つの国に分かたれてしまった。  『人』、『獣』、『妖』、『機』という四つの勢力がそれぞれ国を治め、長年に渡って激しい争いを繰り広げ、土地はすっかり荒廃してしまった。  そんな土地に自らを『タイヘイ』と名乗る謎の青年が現れる。その体にある秘密を秘めているタイヘイは自らの存在に運命めいたものを感じる……。  異なる種族間での激しいバイオレンスバトルが今ここに始まる!

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

処理中です...