【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第9話(2)リハーサル揉めた

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「やっぱり練習ですか……」

「当然だろう」

 甘美に対し、現が頷く。

「う~ん……」

 甘美が首を捻る。

「やめるか? 別にそれでも構わんが」

「ごめんなさい。冗談ですわ。ちゃんと練習をやりますわ」

「ふん……」

 甘美の謝罪に現が腕を組む。

「とりあえず、わたくしたちは4曲やらせてもらいます」

「4曲……」

 刹那が呟く。

「曲目は?」

「ええ、こちらを予定しています」

 幻の問いに応じ、甘美が曲目の書いた紙を配る。

「ふむ……」

 幻がそれに目を通す。

「とりあえず、練習期間を考えてみても、既存の曲が妥当かと……」

「……」

「いかがでしょうか?」

「良いんじゃないの、無難で?」

 甘美の問いに幻が答える。

「三人か四人で、岡山や山口のイベントで演ったことのある曲だな」

「ええ」

 陽炎の言葉に甘美が頷く。

「合わせたことのある曲を選んだのは良いと思う」

「現も無難だと思われますか?」

「ああ、そうだな」

「うむ……」

 甘美が腕を組む。現が目を細める。

「まさか……」

「五人体制になって初めてのステージです。せっかくだから新曲を1曲……」

「無理言うな、余計なことは考えなくていい」

「ですが、インパクトというものが……」

「そもそもほとんどの客が私たちのことを初見だ。既存の曲のクオリティーを高めよう」

 現がもっともなことを言う。

「む……」

「そうと決まれば、さっそく練習だ」

「おおっ!」

「………」

「…………」

 現が両手をポンと叩き、陽炎が元気よく反応。刹那と幻が無言で準備に入る。

「むう、役割を奪われたような……」

 甘美が頬をぷくうっと膨らませる。

「甘美も準備しろ」

「はいはい……」

「はいは一回だ」

「はい!」

 甘美が現に応える。

「……よしっ、始めるぞ」

 現が四人に声をかけ、リハーサルが始まる。

「……あ~ちょっと待って……ストップ、ストップ……」

 幻が演奏を中断する。現が問う。

「どうした?」

「え~っと……」

 幻が額を軽く抑える。

「なにか気になることが?」

 現が重ねて問う。やや間を空けてから、幻が呟く。

「……ギター、走り過ぎ」

「えっ⁉ オレか⁉」

 陽炎が驚く。

「他に誰がいるのよ」

「なにが悪いんだよ」

「悪いでしょ。アタシとベースでリズムを良い感じにキープしているのに、それを無視される様な演奏をされたら……」

 幻が刹那を指し示しながら、問題点を陽炎に伝える。

「別に無視したわけじゃないぜ」

「え?」

「ただなんとなく……気分がノッちまってよ……」

 陽炎が後頭部をポリポリと掻く。

「勝手に乗られてもこっちが困るのよ……」

 幻が呆れ気味な視線を向ける。

「ロックンロールはノリが大事だろうが」

「純真無垢なロックを演っているつもりは毛頭ないわ。これはあくまでもロックテイストな曲でしょ?」

「むっ……」

 陽炎がムッとする。現が慌てる。

「ま、まあ、とりあえず通しで他の曲もやろう。スタジオを借りているんだ。時間も無い」

 現の声でリハーサルが再開される。

「……ああ、ちょっと、ストップ……」

 幻が演奏を中断させる。陽炎が声を上げる。

「今度はなんだよ⁉」

「キーボード、ちょっとメロディーに酔い過ぎじゃない?」

「わ、私か⁉」

 現が自らを指差す。幻が頷く。

「そうよ」

「メ、メロディーに酔い過ぎとは?」

「こっちが置いてけぼりなのよ、もっとリズムを意識してもらわないと……」

 幻が自らと刹那を指し示しながら告げる。陽炎が口を開く。

「んなもん、置いてかれる方が悪いだろうが」

「リズムやバランスというものを忘れたら、それは演奏じゃないわ。ねえ?」

「う、うん……」

 刹那が遠慮気味に頷く。

「これではもはや騒音と変わりないのよ」

「そ、騒音……私のアレンジに不満が⁉」

 今度は現がムッとする。

「自分のアレンジなら、それにもっと忠実に寄り添いなさいよ」

「お行儀よくやったってつまらねえだろう」

「無秩序な音らしきものを聴かされた客はたまったものじゃないでしょうね」

「客よりもまず自分らが楽しむことが大事だろうが」

「自己満足ならせいぜい中学校の文化祭がお似合いね」

「あんだと?」

「待て待て……」

 幻に詰め寄ろうとする陽炎を現が制する。刹那が甘美に問う。

「え、えっと……良いの?」

「ぶつかり合って、お互いを高め合う姿勢……実に素晴らしいですわ!」

「ええ……ライブ、大丈夫かな……?」

 刹那が心配そうに首を傾げる。
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