【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
32 / 50
第一章

第8話(3)ロクでもない出会い

しおりを挟む
「……え?」

 現が首を傾げる。

「いや、こっちがえ?だから!」

 陽炎が声を上げる。

「何か気になったか?」

「いや、気になっているのは甘美ちゃんといつ仲良くなったのかってことよ」

「あ、ああ……」

 幻の言葉に現が頷く。

「その一点だけよ」

「うん、まさしくそうだね」

 幻に刹那が同意する。

「それ以外は正直どうでもいいわ」

「ど、どうでもいい⁉」

 幻の発言に現が驚く。

「さ、さすがにどうでもいいってことはないけれど……」

 刹那が苦笑する。

「要はカンビアッソとウットゥーツの馴れ初めを聞きたいんだよ!」

「な、馴れ初めって……」

 陽炎の言葉に対し、現が少し恥ずかしそうにする。

「セッツ―ナからも何か言ってやれよ!」

「え、ええ……?」

 刹那が戸惑う。

「興味あるだろう?」

「そ、それはね……」

「じゃあ、もっと行け!」

「い、行けって……」

「ええい!」

「うわっ⁉ ぶ、物理的に⁉」

 陽炎に背中を押された刹那が前に出る。

「……刹那も気になるのか?」

「う、うん……」

 現の問いに刹那が頷く。

「そんなにか?」

「まあ、それは……バンドの中心とも言える二人の出会いというのはね……」

「う~ん……それが……」

 現が腕を組んで首を傾げる。

「それが?」

「今ひとつ思い出せないんだよ」

「ええっ⁉」

 刹那がびっくりする。

「なんかこう……頭にこう、もやがかかるというか……」

 現が頭を抑える。

「思い出せないということはないでしょう。超のつくお嬢様と巫女服を着た摩訶不思議女子の邂逅よ? 色物アベンジャーズのオープニングみたいなものでしょ? それを当人が覚えていないなんて……」

「マ、マボロシッチ……結構なことを言ってんな……」

 幻の発言に陽炎が戸惑う。

「う~ん……」

 現が首を捻る。

「もしかしてあれじゃないの? 電車内の痴漢を逮捕しようと手を伸ばしたら、お互いの手が偶然触れ合って……」

「ほ、本屋とかでの出会い……⁉」

 幻の考えに刹那が困惑する。現が答える。

「甘美は入学時から車通学だ……」

「ほう……」

「ウットゥーツがやっているっていう、怪しげな占い屋に客として来たんじゃねえのか?」

「断じて怪しげではないが……あいつは占いの類を好まない……」

 陽炎の発言を現が冷静に否定する。

「大学での出会いなんて、後は学食くらいしかねえぞ?」

「そ、そうかな? もっとあると思うけど……」

 陽炎の呟きに刹那が首を捻る。

「ひょんなことから大食い対決をすることになって……っていう流れかしらね?」

「ど、どんな流れ⁉」

 幻の呟きに刹那が驚く。

「それか早食い対決だな」

「えっ⁉」

「その二択よね」

「ええっ⁉」

「どっちだ……」

「難しいところね……」

「い、いや、絶対そのどっちでもないよ……!」

 陽炎と幻に現が思わず突っ込みを入れる。

「ええっ?」

「えっ?」

 幻と陽炎が刹那を見る。

「じゃあ何食い対決だというの?」

「そうだよ」

「しょ、食から離れて!」

「それじゃあ、刹那ちゃんに聞くけれど……」

「え?」

「なんだと思うの?」

「な、なんだと言われても難しいな……」

 幻からの問いに刹那が首を傾げる。陽炎も刹那に声をかける。

「セッツ―ナからも何か出してくれよ」

「そ、そう言われても……」

「これはバンド存続の危機だぜ⁉」

「ま、まだちゃんと始まってもないのに⁉」

「いや、大げさじゃなく、それくらいの問題だぜ?」

「う、う~ん……大学生らしいことと言えば……」

「言えば?」

「ご、合コンで狙っていた相手が被って、殴り合いになった!」

「ま、まさかの肉食⁉」

「食から離れるというのは⁉」

 刹那の発言に、陽炎と幻が驚く。

「その殴り合いの末に仲良くなった……これだよ!」

「昭和のヤンキー?」

 幻が首を傾げる。

「合コンの類には、私は顔を出したことはないな。甘美は分からんが……少なくとも、二人揃って参加したことはない」

「ち、違うのか……」

 刹那が肩を落とす。

「……少し思い出した。酒の飲めるようになる前には知り合いだったな……」

「ん?」

「そうだ、一年の時の試験だ……二人とも試験を途中で抜け出して……」

「ああ、問題を解き終わって……」

「いや、ヤマが外れて、ヤケクソになって、白紙で提出したんだ。それで意気投合して……」

「ロ、ロクでもない出会いだな⁉ ロックだけど!」

 陽炎が愕然とする。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Millennium226 【軍神マルスの娘と呼ばれた女 6】 ― 皇帝のいない如月 ―

kei
歴史・時代
周囲の外敵をことごとく鎮定し、向かうところ敵なし! 盤石に見えた帝国の政(まつりごと)。 しかし、その政体を覆す計画が密かに進行していた。 帝国の生きた守り神「軍神マルスの娘」に厳命が下る。 帝都を襲うクーデター計画を粉砕せよ!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【第一章完】四国?五国で良いんじゃね?

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 これは遠い未来にあり得るかもしれない世界。  四国地方は文字通りーーかつての時代のようにーー四つの国に分かたれてしまった。  『人』、『獣』、『妖』、『機』という四つの勢力がそれぞれ国を治め、長年に渡って激しい争いを繰り広げ、土地はすっかり荒廃してしまった。  そんな土地に自らを『タイヘイ』と名乗る謎の青年が現れる。その体にある秘密を秘めているタイヘイは自らの存在に運命めいたものを感じる……。  異なる種族間での激しいバイオレンスバトルが今ここに始まる!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される

茶柱まちこ
キャラ文芸
 雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。  ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。  呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。  神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。 (旧題:『大神様のお気に入り』)

処理中です...