【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第7話(2)早朝の刹那

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「短大生って世間一般ではわりと楽なイメージを持たれているかもしれないけれど……」

「ふむ……」

 刹那の話に甘美が頷く。

「これが意外と大変なんだよ。普通の大学生が4年かけてやることを2年で済ませなきゃいけないわけじゃん?」

「ああ……」

「となると、意外に余裕というものはないわけだ……」

「ほう……」

「まあ、短大によるんだけどね」

「ん?」

「または短大内でも、学科によるよね」

「うん?」

「『ちゃんとしなきゃいけない学科』と『遊んでいても卒業出来る学科』があるね……」

「……刹那さんの場合は?」

「これが微妙なんだな」

「微妙?」

 甘美が首を傾げる。

「『半分ちゃんとして、半分遊べる学科』って感じかな」

「はあ……」

「わりと自由に授業を組めると言っても、午前中から授業のことが多いけどね」

「夕方までは授業と……サークル活動などは?」

「あるにはあるけど……参加すると思う?」

「思いませんわ」

 甘美が刹那の問いかけにすぐ答える。

「そ、即答……それもなんか悲しいけど……」

 刹那が苦笑する。

「……夕方からは何を?」

「もっぱらベース弾いてるね」

「練習ですか」

「そう。バイトの日もあるけどね」

「アルバイトは何をされているのですか?」

「楽器店と中古レコード店。常に音楽に触れていられる感じが好きなんだよ」

「ふむ……」

「客層もボクと似たような感じか、馴染みのある感じが多いからね。結構気楽だよ」

 刹那が笑みを浮かべる。

「それが終わったら?」

「コンビニの夜勤。毎日じゃないけど」

「危なくありませんか?」

「ワンオペじゃないから大丈夫だよ。治安がわりと良い地域だし。酔っ払いの客がたまにウザいくらいかな。時給がわりと良いからね」

「……その夜勤が無い日は?」

「部屋でベースに没頭……」

「ふむ? ベースはそこにあるようですが?」

 甘美が壁に立てかけられたベースに視線を向ける。

「……そうだったら恰好良いんだけど、ついつい遊んじゃうんだよね~」

 刹那がゲームのコントローラーを片手に笑う。刹那の隣に座り、モニター画面を見ながら、甘美が尋ねる。

「……こうしてゲームを朝まで?」

「そうだね」

「睡眠は? お話を聞いていると、睡眠時間がないように思えるのですが……」

「まあ、自然と寝落ちするか……」

「するか?」

「変に目が冴えちゃって、朝まで起きてることが多いかな」

「それでは寝られないではないですか」

「寝られるよ」

「はい?」

「すやすやと」

「いつ?」

「日中」

「どこで?」

「主に短大で」

「……分かりました」

 甘美がすくっと立ち上がる。

「うん? どうしたの?」

 刹那が首を傾げる。

「マイペースぶりにも限度があります……」

「ええ?」

「生活のリズムというものを見直しましょう! 夜は寝られるときはしっかり寝て、朝は近所の公園でランニングです!」

「ええっ⁉」

 刹那が驚く。

「よろしいですね?」

「い、いや、よろしくないよ!」

 刹那が首を激しく左右に振る。

「どうして?」

「ランニングなんて健康的なこと不健康だよ!」

「……矛盾していますわよ」

「矛盾じゃない! そんな身体に良いことしたら、身体がびっくりしちゃうよ!」

「なにもいきなり本格的に走れなどと言っているのではありません。徐々に身体を慣らしていくのです……」

「な、なんの為に?」

「ご自身でおっしゃったでしょう。健康の為です」

「そ、そんな……」

「初めはウオーキングでも構いません。そうと決まったら、ジャージに着替えて……」

「か、勝手に決めないでよ!」

 刹那が抗議する。

「ふむ……それではこうしましょう。ゲームでわたくしが勝ったら、わたくしの言う通りにすること。刹那さんが勝ったら、何も言いませんわ」

「ゲ、ゲームで決めるの?」

「悪い条件ではないと思いますが?」

「い、いいよ、じゃあ、やろう」

「……」

 甘美が座り、コントローラーを手に取る。

「言っておくけど、手は抜かないよ?」

「望むところです」

 二人はゲームを始める。それから、しばらくして……。

「ば、馬鹿な……連戦連敗? どのジャンルでも勝てないなんて……」

「習い事でeスポーツがありましたから、プロゲーマーの方に鍛えられました……」

「な、習い事⁉ プ、プロゲーマー⁉」

「……夜が明けてまいりましたね。さあ、公園に参りましょうか!」

「え、ええ……」

「……こうして運動するのも良いものでしょう?」

 公園を歩きながら、甘美が刹那に問う。

「うん、まあ……これはこれで良いかも……」

「それは良かったですわ……」

 自らも留年しかけたことを思い出した甘美は、『人の振り見て我が振り直せ』という言葉を噛みしめるのであった。
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