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第一章
第2話(2)浮かれ気分
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「ん? 君たちは……」
田中が怪訝そうな顔つきになる。現は顔を逸らし、甘美の方を見る。
「甘美」
「え?」
甘美は現から何やら渡される。甘美は一瞬きょとんとする。
「早く付けろ……!」
「は、はい!」
現に促され、甘美は慌てて付ける。金色の縁でハート型をした派手なサングラスであった。現は星型のものを付けている。現はそれを確認して田中に向き直る。
「田中様、どうもお待ちしておりました」
「……」
「いかが致しました?」
「えっと……」
田中は顎に手を当てる。甘美はやや俯きながら呟く。
「こんなもので誤魔化せるわけが……」
「何か?」
「い、いや、これは失礼、知った顔かと思ったが、どうやら違ったようだ」
「ええっ⁉」
驚いた甘美は顔を上げる。
「!」
「痛っ⁉」
現が傍らに立っていた甘美の脛を軽く蹴って、小声で呟く。
「黙っていろ……」
「し、しかし……」
「いいから」
「は、はあ……こんなサングラス一つで誤魔化せてしまうなんて……ひょっとして……わたくしって無個性に近い……⁉」
甘美が愕然とする。田中が首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません。どうぞお掛け下さい」
現が田中に座るよう促す。
「失礼……」
「助手くん、お茶を」
「は?」
甘美が首を傾げる。
「お客様にお茶をお出しするように」
「なんでわたくしがそんなことを……」
「早くしたまえ」
「はいはい……まったく、助手ってなんですの?」
甘美がぶつぶつと文句を言いながらお茶を用意する。
「………」
「どうぞ」
甘美がテーブルにお茶を置く。田中が頭を下げる。
「これはどうも……」
「助手くんも掛けたまえ」
現が甘美に座るように促す。
「…………」
「どうした?」
「助手になった覚えがないのですが」
「アシスタントくん、座りたまえ」
「同じことですわ……!」
「あの……」
田中が二人を見比べる。
「失礼。いいから早く……!」
「まったく……」
甘美が席につく。現が軽く咳払いをしてから口を開く。
「おほん……それでご相談というのは?」
「は、はい……えっとですね……その……」
田中が言い淀む。現が首を傾げる。
「何か気になることでも?」
「いや……」
「どうぞ先におっしゃって下さい」
「よ、よろしいのですか?」
「ええ、構いません」
現が頷く。
「あの……私が思っていたよりも……お若いお嬢さん方だなと……」
「ははっ、頼りないですか?」
「不安が無いと言えば嘘になります……」
「しかし、ここを訪れたということはどなたかのご紹介でしょう?」
「ええ、信頼出来る知人からです」
「ならば何も問題はないでしょう」
現は大げさに両手を広げてみせる。
「で、ですが……」
「田中様、確かに私たちはピッチピチの女子大生、JDです」
「は、はあ……」
「女子大生って言ってしまいましたわ……しかも今時ピッチピチって……」
現の言葉に甘美は小声で反応する。
「ですが、この業界、年を重ねていれば良いというものではありません」
「そうなのですか?」
「ええ、こういった事に対応するのは、若い方がかえって良いのです。何故なら……」
「何故なら?」
現は自らの側頭部を右手の人差し指でトントンと叩く。
「感性が若い……それすなわち柔軟な対応をとることが可能だということです」
「経験が足りていないのだから、むしろ対応が取れないのでは? 痛っ⁉」
小声で呟いた甘美の足を現が軽く踏む。
「うむ……」
田中が自らの顎をさする。
「私たちはすでに数多くの実績を挙げており、この業界では重鎮の方々からも一目置かれている存在です」
「どの業界のことを言っているのだか……」
甘美が呆れ気味に呟く。
「なにより信頼出来るお知り合いがこちらを紹介したという事実が一番かと思いますが?」
「そ、それは確かに……」
田中が頷く。現が笑みを浮かべる。
「では……よろしいですね?」
「は、はい、お願いします……」
「それでは、そちらのチェアにお座り下さい」
「はい……」
田中がチェアに移る。
「リラックスして……♪」
「zzz……」
現が鈴を鳴らすと、田中はすぐに眠りについた。甘美が尋ねる。
「お悩みは聞かなくて良かったのですか?」
「前もって聞いてある……大体いつもと同じことだ」
「ふむ……」
「おい、なんだ、そんなサングラスなんかして……夢世界攻略だぞ、浮かれ気分はやめろ」
「あ、貴女が渡してきたのでしょう⁉」
現の言葉に甘美が反発する。
田中が怪訝そうな顔つきになる。現は顔を逸らし、甘美の方を見る。
「甘美」
「え?」
甘美は現から何やら渡される。甘美は一瞬きょとんとする。
「早く付けろ……!」
「は、はい!」
現に促され、甘美は慌てて付ける。金色の縁でハート型をした派手なサングラスであった。現は星型のものを付けている。現はそれを確認して田中に向き直る。
「田中様、どうもお待ちしておりました」
「……」
「いかが致しました?」
「えっと……」
田中は顎に手を当てる。甘美はやや俯きながら呟く。
「こんなもので誤魔化せるわけが……」
「何か?」
「い、いや、これは失礼、知った顔かと思ったが、どうやら違ったようだ」
「ええっ⁉」
驚いた甘美は顔を上げる。
「!」
「痛っ⁉」
現が傍らに立っていた甘美の脛を軽く蹴って、小声で呟く。
「黙っていろ……」
「し、しかし……」
「いいから」
「は、はあ……こんなサングラス一つで誤魔化せてしまうなんて……ひょっとして……わたくしって無個性に近い……⁉」
甘美が愕然とする。田中が首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません。どうぞお掛け下さい」
現が田中に座るよう促す。
「失礼……」
「助手くん、お茶を」
「は?」
甘美が首を傾げる。
「お客様にお茶をお出しするように」
「なんでわたくしがそんなことを……」
「早くしたまえ」
「はいはい……まったく、助手ってなんですの?」
甘美がぶつぶつと文句を言いながらお茶を用意する。
「………」
「どうぞ」
甘美がテーブルにお茶を置く。田中が頭を下げる。
「これはどうも……」
「助手くんも掛けたまえ」
現が甘美に座るように促す。
「…………」
「どうした?」
「助手になった覚えがないのですが」
「アシスタントくん、座りたまえ」
「同じことですわ……!」
「あの……」
田中が二人を見比べる。
「失礼。いいから早く……!」
「まったく……」
甘美が席につく。現が軽く咳払いをしてから口を開く。
「おほん……それでご相談というのは?」
「は、はい……えっとですね……その……」
田中が言い淀む。現が首を傾げる。
「何か気になることでも?」
「いや……」
「どうぞ先におっしゃって下さい」
「よ、よろしいのですか?」
「ええ、構いません」
現が頷く。
「あの……私が思っていたよりも……お若いお嬢さん方だなと……」
「ははっ、頼りないですか?」
「不安が無いと言えば嘘になります……」
「しかし、ここを訪れたということはどなたかのご紹介でしょう?」
「ええ、信頼出来る知人からです」
「ならば何も問題はないでしょう」
現は大げさに両手を広げてみせる。
「で、ですが……」
「田中様、確かに私たちはピッチピチの女子大生、JDです」
「は、はあ……」
「女子大生って言ってしまいましたわ……しかも今時ピッチピチって……」
現の言葉に甘美は小声で反応する。
「ですが、この業界、年を重ねていれば良いというものではありません」
「そうなのですか?」
「ええ、こういった事に対応するのは、若い方がかえって良いのです。何故なら……」
「何故なら?」
現は自らの側頭部を右手の人差し指でトントンと叩く。
「感性が若い……それすなわち柔軟な対応をとることが可能だということです」
「経験が足りていないのだから、むしろ対応が取れないのでは? 痛っ⁉」
小声で呟いた甘美の足を現が軽く踏む。
「うむ……」
田中が自らの顎をさする。
「私たちはすでに数多くの実績を挙げており、この業界では重鎮の方々からも一目置かれている存在です」
「どの業界のことを言っているのだか……」
甘美が呆れ気味に呟く。
「なにより信頼出来るお知り合いがこちらを紹介したという事実が一番かと思いますが?」
「そ、それは確かに……」
田中が頷く。現が笑みを浮かべる。
「では……よろしいですね?」
「は、はい、お願いします……」
「それでは、そちらのチェアにお座り下さい」
「はい……」
田中がチェアに移る。
「リラックスして……♪」
「zzz……」
現が鈴を鳴らすと、田中はすぐに眠りについた。甘美が尋ねる。
「お悩みは聞かなくて良かったのですか?」
「前もって聞いてある……大体いつもと同じことだ」
「ふむ……」
「おい、なんだ、そんなサングラスなんかして……夢世界攻略だぞ、浮かれ気分はやめろ」
「あ、貴女が渡してきたのでしょう⁉」
現の言葉に甘美が反発する。
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