【第一章完】この厳島甘美にかかればどうということはありませんわ!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
1 / 50
第一章

とある依頼

しおりを挟む
                  0

 周囲をレンガで覆われた薄暗い道を歩く若い女性が二人。

「今のところ特に変わったことはありませんわね……やはり気のせいでは?」

 長く綺麗な金髪の女性が口を開く。黒いシャツとパンツの上に白いジャケットを羽織っている。その美しく凛々しい表情には気品と自信が同居している。

「……油断は禁物」

 金髪の女性のやや後ろを歩く、黒髪のショートボブの女性がボソッと呟く、神社の巫女さんが巫女舞で着るような衣装を身に纏い、背中に何かを背負っている。こちらも端正な顔立ちだが、どこか陰なる雰囲気を漂わせている。金髪の女性がややうんざりした顔で反応する。

「……そんなことは重々承知しています」

「念には念を……」

「そのフレーズの極端な少なさ、なんとかなりませんこと?」

「口数が多いとクレームをつけてきたのはそちら……!」

「グオオッ!」

 二足歩行の白いワニのような化け物がレンガの壁をぶち壊して現れ、女性たちを襲う。

「やっとお出ましになりましたわね! 参りますわよ!」

「援護する……。~~♪」

 黒髪の女性が背中に背負っていたものから音を奏でる。白ワニの動きがピタッと止まる。

「お仕置きの時間ですわ! はあっ!」

「グオッ⁉」

 金髪の女性が掛け声を発すると、白ワニが吹っ飛び霧消する。金髪の女性が目を丸くする。

「あらら? それだけ? まだイントロすらも終わっておりませんのに……」

 薄暗い道がパッと明るくなる。黒髪の女性が諸々を確認して、頷きながら呟く。

「なるほど、締め切り間際の白いワニか……問題はクリアされたようだ……帰還しよう」

「う……うん……?」

 あるオンボロな雑居ビルの一室で、中年男性が目を覚ます。金髪の女性が覗き込み尋ねる。

「お目覚めになられましたね。いかがでしょうか。良い夢は見られましたか?」

「……は、はい、不思議と心がスッと晴れやかになりました!」

「それは何よりですわ! また何かあれば気兼ねなくご相談下さい!」

 金髪の女性が陽気な声で応える。中年男性はお礼を言って、お金を払い、その場を去る。

「ふっ、さすがは人気のある漫画家……金払いが良い……これで今月はかなりの儲け……」

 黒髪の女性が笑みを浮かべる。金髪の女性が窓から外を眺めながらため息交じりで呟く。

「これはあくまでも『副業』、早く『本業』でお金を稼ぎたいものですわ……」

「前途は多難……」

「この厳島甘美(いつくしまかんび)、『夢世界(ダンジョン)』攻略者ではなく、スーパースターになりたいですわ……!」

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...