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第三章

第30話(1) 試される大地へ

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                  肆

「は~るばる来たぜ~函館~‼」

 空港を出て一慶が声を上げる。

「……厳密に言うと、新千歳空港だ」

 御剣が訂正する。

「細かいこと言うなよ、こういうのは気分が大事なんだよ」

「場所を正確に把握することの方が大事だ」

「へえへえ……」

「へえは一回だ」

「いや、そこも訂正すんのかよ」

「隊長、これからどこに向かうのですか?」

 一美が御剣に尋ねる。

「北海道管区管区長の隊舎に向かう」

「隊舎に?」

「ああ、そこを拠点として行動する。話は既に通してある」

「そうですか……」

 一美が顔を伏せる。

「どうかしたのか?」

「いいえ、豪華なホテルに泊まれるかもだなんて、これっぽっちも思っていません……」

「……本音が思いっきり出ているぞ」

「ね、姉ちゃん! もうちょっと緊張感を持とうぜ!」

「勇次……そうよね。いつまた加茂上か、それともその息がかかったものが襲いかかってくるか分からないものね……さっきはまんまと逃げられてしまったし……」

「うっ!」

 一慶が胸を抑える。

「せめて捕らえることが出来れば、奴らの出方もある程度分かったかもしれんがな……」

「ううっ!」

 一慶がさらに強く胸を抑える。

「……」

「………」

 御剣と一美がじっと一慶を見つめる。

「う、うるせえな! 悪かったな、油断して!」

 一慶が声を荒げる。

「……まあ、済んだことは仕方ない。切り替えるとしよう」

「はい」

 一美が御剣の言葉に頷く。

「さて……」

 御剣が周囲を見回す。勇次が尋ねる。

「どうしたんですか?」

「いや、迎えを寄越すという話だったのだが……」

「上杉山御剣第五管区長、ようこそ北海道へ」

「!」

 御剣たちが驚く。いつの間にか背後に、金髪碧眼でショートボブの女性が立っていたからである。その女性はスラっとした体格で、女性としては比較的長身の御剣や一美より頭一つほど背が高い。スタイルだけでなく、目鼻立ちも整った金髪の女性は言葉を続ける。

「隊舎の方へご案内させて頂きます」

「そうか、よろしく頼む」

「では、こちらへどうぞ……」

 金髪の女性が御剣たちを促して、前を歩き始める。御剣たちがそれに続く。

「ああ……」

「……おい」

「ん? なんだ?」

 一慶が御剣に対して首を傾げる。

「貴様は自分の用事があるだろう。風来坊は風来坊らしくしろ」

「風来坊らしくしろってなんだよ。用事は別にいつでもいいさ」

「ついてくる気か?」

「ああ、隊舎を見てみたいからな」

「ふむ……」

「借りも出来たからな。これ以上足は引っ張らないと思うぜ?」

「……まあ、いないよりはいた方がマシか」

「わりと評価が低いな」

 一慶が苦笑する。金髪の女性が立ち止まって、小首を傾げて振り返る。

「……いかがなさいましたか?」

「ああ、すまない、貴女の美しさに立ち眩みがしてしまって……」

「はあ……」

 金髪の女性が困惑気味に目をしばたたかせる。長いまつ毛が揺れる。御剣が呟く。

「……この助平坊主の言うことは基本無視して良い」

「酷い言われようだな」

「……了解しました」

「了解しちゃったよ!」

 その後、金髪の女性による案内で、御剣たちは隊舎に到着する。

「上杉山管区長と隊員の方々二名、他一名をご案内しました」

「他一名って……」

「御剣姉ちゃん!」

 マッシュルームカットの少年が御剣に勢い良く抱き着く。

「ああん⁉ このガキ……!」

 一慶が少年を睨みつける。御剣がたしなめる。

「子供相手にそうムキになるな、一慶……」

「そうだよ、大目に見ろよな~坊主よ~」

「てめえは仮にも管区長だろうが……!」

「ええっ⁉ 管区長⁉」

 一美が驚く。少年が御剣から離れて軽く礼をする。

「そうだよ、夜叉の半妖のお姉ちゃん。鬼ヶ島一美さんだっけ? 僕は中田貫太郎(なかたかんたろう)。この北海道管区……通称『第一管区』の管区長さ!」

 貫太郎が自らを右手の親指で指し示す。一美が両手で口元を覆う。

「なっ……」

「そうだよな、姉ちゃん、最初は俺も驚いたぜ」

「……は、半ズボン姿の少年……新たな性癖が刺激される……これが試される大地……⁉」

「な、何を言っているんだ⁉」

 訳の分からないことを口走る一美に勇次が困惑する。

「ようこそおいでくださいました……上杉山管区長……」

「きゃあっ⁉ く、熊⁉」

 突然現れた二足歩行の大きな熊に一美が驚く。熊が丁寧に礼をする。

「どうも初めまして……鬼ヶ島一美さん。某はこの北海道管区の副管区長を務めております、大五郎丸(だいごろうまる)です。熊ではなく、厳密には熊男の半妖です」

「あ、そ、そうですか……失礼しました……」

 一美が戸惑い気味に頷く。貫太郎が御剣に対し、自信満々に告げる。

「半妖の姉弟さんの安全は僕らが保証するよ、ここなら絶対に安全だからね!」

「そうか、頼もしいな。それでこちらの女性は? 見かけない顔だが……」

 御剣が金髪の女性に視線を向ける。

「ああ、管区長補佐というか、秘書をやってもらっているアナスタシア! 先日隊舎の前で行き倒れになっていたところを保護したんだ!」

(あ、怪しい……!)

(ああ、なんて心優しいの……!)

(ああん? こんな美人が秘書だと⁉ 羨ましい……!)

 貫太郎の説明に勇次と一美と一慶がそれぞれの思いを抱く。
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