117 / 123
第三章
第29話(2) 手合わせ
しおりを挟む
「なんだと……?」
「ね、姉ちゃん! いきなり何を言い出すんだよ!」
「いや、つい勢いで……」
一美が自らの後頭部を抑える。
「勢いでわけわかんねえことを言うなよ!」
「でも……ちょっとこっち来て」
一美が勇次を隊長室の隅に連れていく。
「なんだよ?」
「いいの?」
一美が小声で尋ねる。
「なにがだよ?」
「このままだと、あの坊主頭さんと隊長さんが正式にお付き合いすることになるかもしれないのよ?」
「そうか? 隊長は負けないと思うけどな……」
「いや、あの坊主頭さん……相当やりそうよ?」
「それは俺も分かるけどさ……」
「でしょ?」
「仮にそういう結果になったとしても、俺がどうこう言うことじゃないからな……」
「そこはどうこう言いなさいよ!」
一美が怒鳴る。勇次が戸惑う。
「一体何を怒鳴られているんだよ……」
「いい? 私はアンタと隊長のことを応援しているの」
「? ああ、いつもありがとう」
「あ~! だから、そういうことじゃなくて!」
一美が頭を抱える。
「何をさっきから大声出しているんだよ?」
「私の人生の展望を聞いてくれる?」
「い、いきなりなんだよ」
「色々過程はすっ飛ばすけど……」
「いや、すっ飛ばすなよ」
「いいから。あのクール&ビューティーな隊長が私のことを『一美お義姉さん』とか言ってくれたらどうしてなかなか素敵だと思わない?」
「さっきから何を言っているんだよ……」
勇次が困惑する。
「それを横からしゃしゃり出てきた謎の海坊主に邪魔されたくないの」
「おい、聞こえているぞ、誰が海坊主だ」
一慶がムッとする。
「あら、ごめんあそばせ、おほほ……」
一美が口元を抑えて笑う。御剣が真剣な表情で一慶に問う。
「……海坊主の半妖だったのか?」
「違えよ」
「冗談だ」
「真顔で言うな」
「しかし……どうだろうか?」
「何がだ?」
「勇次との手合わせだ」
「おいおい、こいつは妖絶講に入って一年も経ってねえだろう?」
「そうだな」
「そんなルーキーボーイと俺に手合わせしろと?」
「得るものがあるかも知れんぞ?」
「いやあ、無えだろう~」
「……勇次は鬼の半妖だぞ」
「! そういえばそうだったな……」
一慶が勇次を見つめる。
「頼む。手合わせしてもらえないか? 勇次の現時点での実力を計りたい」
「俺は物差しかよ……」
「どちらかと言えば分度器だな」
「丸みで判断すんな」
一慶は自らの坊主頭を抑える。
「では……」
「ん?」
「管区長命令だ。古前田隊隊長古前田一慶、上杉山隊との合同訓練に参加せよ」
御剣が居住まいを正して告げる。
「命令ときたか……」
一慶が自らの頭を撫でる。
「どうする?」
「分かった、分かった、やれば良いんだろ」
「では、隊舎正面に出るぞ」
御剣が席から立ち上がり、すたすたと隊長室を出る。
「ったく……」
一慶がその後に続く。
「随分と妙な展開になったわね……」
「誰のせいだよ」
勇次が一美に冷ややかな視線を向ける。
「……では、双方準備は良いな? 手合わせを始めろ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「どうした勇次?」
「い、いや、古前田隊長のご準備がまだのようですが……」
「問題ねえぞ?」
一慶が屈伸をしながら答える。金棒を持ちながら勇次が尋ねる。
「え? あの……武器は?」
「要らねえ」
「あ、素手で戦われているのですか?」
「いや、普段は武器を持っているさ。ただ、こんな展開になるとは思ってなかったからな」
「武器の貸し出しなら出来ますが……」
「自分のなら転移鏡の側に置いてあるよ」
「で、では、それを……」
「だから要らねえって……お前程度なら素手で十分だ」
「!」
「さあ、かかってこいよ……」
屈伸を終えた一慶が手招きをする。勇次が顔を険しくしながら問う。
「……本気でいきますよ?」
「当然だ、訓練にならねえからな」
「はああ……」
勇次が気合を込める。一慶が目を見張る。
「おおっ、頭に角が生えて……全体的にほんのりと赤くなっているな……」
「はあっ!」
「! よっと!」
「⁉」
飛びかかった勇次だが、次の瞬間、地面に転がっていた。一慶が呟く。
「まあ、筋は悪くねえみたいだけどな……」
「な、なにを……?」
「ちょっと風を読んだだけさ。さあ、御剣、俺と手合わせしようぜ」
「……すまんが、これから北海道へ行かなくてはならないのでな。また今度にしてくれ」
「北海道? 奇遇だな、俺もちょうど行こうと思っていたんだ。飛行機でな」
「なに?」
「はっはっは、気が合うねえ~」
一慶がからからと笑う。
「ね、姉ちゃん! いきなり何を言い出すんだよ!」
「いや、つい勢いで……」
一美が自らの後頭部を抑える。
「勢いでわけわかんねえことを言うなよ!」
「でも……ちょっとこっち来て」
一美が勇次を隊長室の隅に連れていく。
「なんだよ?」
「いいの?」
一美が小声で尋ねる。
「なにがだよ?」
「このままだと、あの坊主頭さんと隊長さんが正式にお付き合いすることになるかもしれないのよ?」
「そうか? 隊長は負けないと思うけどな……」
「いや、あの坊主頭さん……相当やりそうよ?」
「それは俺も分かるけどさ……」
「でしょ?」
「仮にそういう結果になったとしても、俺がどうこう言うことじゃないからな……」
「そこはどうこう言いなさいよ!」
一美が怒鳴る。勇次が戸惑う。
「一体何を怒鳴られているんだよ……」
「いい? 私はアンタと隊長のことを応援しているの」
「? ああ、いつもありがとう」
「あ~! だから、そういうことじゃなくて!」
一美が頭を抱える。
「何をさっきから大声出しているんだよ?」
「私の人生の展望を聞いてくれる?」
「い、いきなりなんだよ」
「色々過程はすっ飛ばすけど……」
「いや、すっ飛ばすなよ」
「いいから。あのクール&ビューティーな隊長が私のことを『一美お義姉さん』とか言ってくれたらどうしてなかなか素敵だと思わない?」
「さっきから何を言っているんだよ……」
勇次が困惑する。
「それを横からしゃしゃり出てきた謎の海坊主に邪魔されたくないの」
「おい、聞こえているぞ、誰が海坊主だ」
一慶がムッとする。
「あら、ごめんあそばせ、おほほ……」
一美が口元を抑えて笑う。御剣が真剣な表情で一慶に問う。
「……海坊主の半妖だったのか?」
「違えよ」
「冗談だ」
「真顔で言うな」
「しかし……どうだろうか?」
「何がだ?」
「勇次との手合わせだ」
「おいおい、こいつは妖絶講に入って一年も経ってねえだろう?」
「そうだな」
「そんなルーキーボーイと俺に手合わせしろと?」
「得るものがあるかも知れんぞ?」
「いやあ、無えだろう~」
「……勇次は鬼の半妖だぞ」
「! そういえばそうだったな……」
一慶が勇次を見つめる。
「頼む。手合わせしてもらえないか? 勇次の現時点での実力を計りたい」
「俺は物差しかよ……」
「どちらかと言えば分度器だな」
「丸みで判断すんな」
一慶は自らの坊主頭を抑える。
「では……」
「ん?」
「管区長命令だ。古前田隊隊長古前田一慶、上杉山隊との合同訓練に参加せよ」
御剣が居住まいを正して告げる。
「命令ときたか……」
一慶が自らの頭を撫でる。
「どうする?」
「分かった、分かった、やれば良いんだろ」
「では、隊舎正面に出るぞ」
御剣が席から立ち上がり、すたすたと隊長室を出る。
「ったく……」
一慶がその後に続く。
「随分と妙な展開になったわね……」
「誰のせいだよ」
勇次が一美に冷ややかな視線を向ける。
「……では、双方準備は良いな? 手合わせを始めろ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「どうした勇次?」
「い、いや、古前田隊長のご準備がまだのようですが……」
「問題ねえぞ?」
一慶が屈伸をしながら答える。金棒を持ちながら勇次が尋ねる。
「え? あの……武器は?」
「要らねえ」
「あ、素手で戦われているのですか?」
「いや、普段は武器を持っているさ。ただ、こんな展開になるとは思ってなかったからな」
「武器の貸し出しなら出来ますが……」
「自分のなら転移鏡の側に置いてあるよ」
「で、では、それを……」
「だから要らねえって……お前程度なら素手で十分だ」
「!」
「さあ、かかってこいよ……」
屈伸を終えた一慶が手招きをする。勇次が顔を険しくしながら問う。
「……本気でいきますよ?」
「当然だ、訓練にならねえからな」
「はああ……」
勇次が気合を込める。一慶が目を見張る。
「おおっ、頭に角が生えて……全体的にほんのりと赤くなっているな……」
「はあっ!」
「! よっと!」
「⁉」
飛びかかった勇次だが、次の瞬間、地面に転がっていた。一慶が呟く。
「まあ、筋は悪くねえみたいだけどな……」
「な、なにを……?」
「ちょっと風を読んだだけさ。さあ、御剣、俺と手合わせしようぜ」
「……すまんが、これから北海道へ行かなくてはならないのでな。また今度にしてくれ」
「北海道? 奇遇だな、俺もちょうど行こうと思っていたんだ。飛行機でな」
「なに?」
「はっはっは、気が合うねえ~」
一慶がからからと笑う。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
時は平安と呼ばれていた時代、平和かと思われた京の都にも、物の怪の類が連日連夜、悪さを働こうとしていた。
それらをほとんど未然に防ぐ活躍をしていた、稀代の天才陰陽師『安倍晴明』。
ところが、晴明は「後は任せた」と言い出して、突然(部分的な)休暇に入ってしまう。
弟子である五人の女の子たちが、師匠の代わりに物の怪退治へと赴くも、思わぬ事態が発生してしまって……!?
新感覚の平安妖退治ファンタジー、ここに幕開け!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる