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第三章

第29話(1) 突然の告白

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                  参

「……鬼ヶ島勇次、鬼ヶ島一美、参りました」

「入れ」

「失礼します……」

 勇次と一美が隊長室に入り、机の前に並ぶ。

「急に呼び出してすまんな」

「いえ……」

「用件だが、単刀直入に言おう」

「はい……」

「北海道に行こう」

「は?」

「え?」

 勇次と一美が揃って首を傾げる。

「……」

「………」

「そうだ、北海道に行こう!」

「いや、キャッチコピーみたいに言い直されても!」

「言い方の問題ではありません」

「違うのか」

「ええ、何故ですか?」

 一美が尋ねる。

「……加茂上晃穂が脱走した」

「なっ⁉」

「えっ⁉」

 勇次たちが驚く。

「何者かの手引きで巧妙に妖絶講本部から抜け出したようだ」

「そんな……」

「わずかに残る情報を検討した結果、北海道に逃れたようだ」

「北海道……」

「ああ、そういうわけでそれを追いかける。ちょうどこれもあるからな」

 御剣が紙を三枚、机の上に並べる。一美がそれを見る。

「航空券?」

「ああ、善川管区長からの頂きものだ。せっかくだからこれを使わせてもらおうと思ってな」

「飛行機で向かうんですか?」

 勇次が問う。

「そうだ」

「それなら転移鏡を使えば良いんじゃないですか?」

「転移鏡を何度か使用することになる。そうなると体への負担も馬鹿にならないからな」

「はあ……」

「それに……」

「それに?」

「表向きは休暇旅行ということにしてある。私的な理由で東北管区を縦断するというのは少々マズい……隣県への移動というくらいならまだしもな」

「なるほど……」

 勇次が頷く。一美が問う。

「加茂上の確保に隊長が動くということですね?」

「ああ、私が立候補させてもらった」

「しかし……解せません」

 一美が顎に手を当てる。御剣が首を捻る。

「何がだ?」

「加茂上の狙いは私たち姉弟ですよね?」

「そうだろうな」

「何故、私たちを帯同させるのですか?」

「どうせ狙ってくるのなら、あえて懐に飛び込んでみるのもありかと思ってな。私の目が届きやすい所にいてくれた方が安心するというのもある」

「ふむ……」

「納得してくれたか? リスクは伴うが……」

「良い囮にはなるでしょうね」

「ま、まあ、言い方はあれかもしれんが、そういう意味あいを含めているということは否定出来んな……」

 御剣は恐縮した様子を見せる。一美はふっと微笑む。

「大丈夫です。北海道へ、私たちもご同行させてもらいます」

「そ、そうか?」

「こちらに残っていても、どうせその内相手も狙ってくるでしょうから」

「そう考えてもらえると助かる……」

 御剣が頭を下げる。一美が勇次に尋ねる。

「勇次もそれで良いわよね?」

「あ、ああ……」

「決まりね。あ~楽しみだわ、北海道!」

 一美が腕を組んでうんうんと頷く。勇次は首を捻る。

「観光とかしている暇は無えと思うけど……ん?」

 隊長室のドアがバンと開き、大柄な男が入ってくる。

「邪魔するぜ!」

「貴様……」

 御剣が険しい目で部屋に入ってきた男を見つめる。

「おおっ、久しぶりだな、御剣! ますますいい女になっているじゃねえか!」

 大柄な男が机に両手をつく。スキンヘッドで精悍な顔つきをしている。

「久しぶりって……」

「いや~なかなか会えないからよ~」

「それは貴様がふらふらとしているからだ。隊長にも関わらずな」

「う~ん、根っからの風来坊気質なものだからよ。決まっている場所にじっとしているのは性に合わねえんだよ」

「隊長……?」

「確かに妖絶講の隊服は着ているわね、だいぶ着崩しているけど……」

 勇次と一美が怪訝そうに大柄な男を見つめる。御剣がその男を指し示しながら告げる。

「二人は初めて会うな。古前田隊の隊長、古前田一慶(こまえだいっけい)だ」

「おう! よろしくな!」

 紹介された一慶が爽やかに勇次たちに挨拶する。

「こ、この人が古前田隊の……」

「この二人は?」

「鬼ヶ島一美と鬼ヶ島勇次だ……」

「ああ~噂の半妖姉弟か……まあ、そんなことよりもよ」

「そんなことより⁉」

 勇次が戸惑う。一慶が御剣に告げる。

「俺と付き合ってくれ! 御剣!」

「‼」

 一慶の言葉に勇次と一美は驚く。

「断る」

「何故だ!」

「自分よりも弱い男とは付き合うなと言われている」

「だから強くなったぜ! 各地を放浪してな!」

「……隊長の任務を半ば放棄してやっていたことがそれか?」

「ぐっ……妖根絶はしていたさ! そうだ! また俺と手合わせしてくれ!」

「ふむ、手合わせか……」

「隊長が出るまでもありません! 弟の勇次がお相手します!」

「ええっ⁉」

 一美の突然の提案に勇次はびっくりする。
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