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第三章

第27話(1) ドタバタ妖退治

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                  壱

「ふむ……やっぱり睨んだ通りにゃ」

「何が睨んだ通りなんだよ、又左(またざ)」

 短い黒髪で痩せ型だがたくましい体付きをした青年が、自分の前をてくてくと歩く、人の言葉を話す不思議な黒猫、又左に尋ねる。

「勇次、気を付けるにゃ」

 又左が周囲の山道を見回す。勇次と呼ばれた青年は同様の行為をしてから首を傾げる。

「? 多少雨が強くなってきたけど……足を滑らせるようなヘマはしないぜ」

「そうじゃにゃくて、妖(あやかし)ににゃ」

「妖? いや、妖レーダーにはなんの反応もないぜ?」

 勇次は自分の手首を又左に向かって突き出す。そこには腕時計のようなものが巻かれている。又左が説明する。

「その妖が持つ妖力が微弱なものだと、反応しにくいケースもあるにゃ」

「そういうものなのか……微弱ならばわざわざ出動するまでもなくないか? 人に危害を加えるような可能性は低いんだろう?」

「う~ん、にゃんと言えばいいか……」

 又左が考え込む。勇次が首を傾げる。

「なんだよ……って、うおっ⁉」

 その時、勇次のレーダーが激しく振動を始める。又左が冷静に告げる。

「そのレーダーが反応したということは、人間に対して悪意を持った妖が近くにいるということ……つまり、『根絶対象』ということにゃ」

「『根絶対象』か……」

「そう、我々、妖を絶やす為の組織、妖絶講(ようぜつこう)の出番だというわけにゃ」

「しかし、どこにいるんだ? 姿が見えないぞ」

「油断するにゃよ……」

「それは分かっているけどよ……って、ええっ⁉」

 その時、勇次の体の一部がいきなり燃え上がる。又左が声を上げる。

「来たにゃ!」

「くっ! なんだこれは!」

 勇次が体をバタつかせたり、手に持った金棒を使って、着いた火を消そうとする。しかし、火は勇次の体の別の所へとどんどん燃え移る。又左が目を細める。

「むむ、これは……」

「な、なんだよ! この火は! 体中にまとわりついてきやがる!」

「それは……『蓑火(みのび)』にゃ!」

「み、蓑火⁉」

「ああ、地域によっては『蓑虫火』などとも呼ばれる怪火にゃ。雨の日に人間が身に着けている蓑や傘にまとわりつく習性がある!」

「蓑とかいつの時代だよ!」

「現代ではシンプルに人間の衣服を燃やそうとしているようだにゃ! そのままだと全身に火が回ってしまうにゃ!」

「勇次!」

「ね、姉ちゃん⁉」

「一美か!」

 そこに、金糸雀色のロングヘア―をなびかせたスレンダーな体型の女性が駆け付ける。一美と呼ばれた女性は勇次に問う。

「勇次、大丈夫⁉」

「どうみても大丈夫ではねえよ!」

「又左さん、状況は⁉」

「勇次が蓑火という怪火にまとわりつかれているにゃ!」

「了解! 根絶するわ!」

 一美が大きな鎌を構える。勇次が慌てる。

「ちょ、ちょっと待て! どうするつもりだ!」

「その体にまとわりついている火をこの鎌で狩るわ!」

「い、いやどうやって⁉」

「なんかこう……うまいことやって!」

 一美が鎌の素振りをしてみせる。勇次が声を上げる。

「きゃ、却下だ! 却下!」

「それなら……隊服を脱ぎなさい! 下着もよ!」

 一美が自身も着ている、黒い軍服調の服をつまみながら叫ぶ。

「ええっ⁉」

「隊服ならまた替えが支給されるわ! そのままだと全身が燃えちゃうわよ!」

「いや、なんていうか、裸を見られるのは恥ずいっていうか……」

「何を言っているの! 昔はよく一緒にお風呂に入ったでしょ⁉」

「ガキの頃の話だろ! 今は大人だぞ⁉」

「むしろ、それがいいんじゃない!」

 一美が満面の笑みでサムズアップする。

「な、何を言ってんだよ⁉」

「勇次、そこの小川に飛び込むにゃ!」

「おおっ!」

 勇次は又左の指示に従い、小川に勢いよく飛び込む。火が消える。

「ふう、良かったにゃ……」

「ち、余計なことを……」

 安堵する又左の横で一美が小さく舌打ちする。勇次が別の気配に気付く。

「む!」

 そこに大きな蓑虫状の火が現れる。又左が叫ぶ。

「お、恐らく、蓑火の親玉にゃ! 子分が消されて怒っているにゃ!」

「こ、この大きさ……体がすっぽり覆われてしまうわ!」

「くっ……おらあっ!」

 勇次が金棒を思い切り振るう。しかし、火は消えない。

「だ、駄目にゃ!」

 火がゆっくりと勇次たちに近づいてくる。勇次が声を上げる。

「くそ! どうすれば……」

「勇次、連続攻撃よ!」

「えっ⁉」

「私に続いて!」

 一美が鎌を鋭く振るう。勇次も再び金棒を振るう。

「お、おらあっ!」

「このまま、順番に間断なく攻撃するのよ!」

「お、おう!」

「……ほら! 火の勢いがなんとなく弱まってきたような気がするでしょう⁉」

「気がするじゃ駄目なんだよ! って、火が迫ってきた!」

「……何をわーきゃー騒いでいるのだ……」

「‼」

 次の瞬間、勇次が目を開くと、白髪のミディアムボブでストレートの髪型をした女性が日本刀を大蓑火に突き立てていた。刀から激しい冷気があふれ、火はたちまち凍り付く。女性が刀を鞘に納めて、ゆっくりと口を開く。

「妖絶士(ようぜつし)たるもの常に冷静沈着を心がけろ、鬼ヶ島勇次(おにがしまゆうじ)、鬼ヶ島一美(おにがしまかずみ)……」

「た、隊長……」

「この上杉山御剣(うえすぎやまみつるぎ)の隊の隊員がそんな調子では困るぞ」

「す、すみません……」

「まあいい、皆無事だな、それでは帰投する!」

 御剣と名乗った女性は凛とした声で皆に告げる。
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