108 / 123
第三章
第27話(1) ドタバタ妖退治
しおりを挟む
壱
「ふむ……やっぱり睨んだ通りにゃ」
「何が睨んだ通りなんだよ、又左(またざ)」
短い黒髪で痩せ型だがたくましい体付きをした青年が、自分の前をてくてくと歩く、人の言葉を話す不思議な黒猫、又左に尋ねる。
「勇次、気を付けるにゃ」
又左が周囲の山道を見回す。勇次と呼ばれた青年は同様の行為をしてから首を傾げる。
「? 多少雨が強くなってきたけど……足を滑らせるようなヘマはしないぜ」
「そうじゃにゃくて、妖(あやかし)ににゃ」
「妖? いや、妖レーダーにはなんの反応もないぜ?」
勇次は自分の手首を又左に向かって突き出す。そこには腕時計のようなものが巻かれている。又左が説明する。
「その妖が持つ妖力が微弱なものだと、反応しにくいケースもあるにゃ」
「そういうものなのか……微弱ならばわざわざ出動するまでもなくないか? 人に危害を加えるような可能性は低いんだろう?」
「う~ん、にゃんと言えばいいか……」
又左が考え込む。勇次が首を傾げる。
「なんだよ……って、うおっ⁉」
その時、勇次のレーダーが激しく振動を始める。又左が冷静に告げる。
「そのレーダーが反応したということは、人間に対して悪意を持った妖が近くにいるということ……つまり、『根絶対象』ということにゃ」
「『根絶対象』か……」
「そう、我々、妖を絶やす為の組織、妖絶講(ようぜつこう)の出番だというわけにゃ」
「しかし、どこにいるんだ? 姿が見えないぞ」
「油断するにゃよ……」
「それは分かっているけどよ……って、ええっ⁉」
その時、勇次の体の一部がいきなり燃え上がる。又左が声を上げる。
「来たにゃ!」
「くっ! なんだこれは!」
勇次が体をバタつかせたり、手に持った金棒を使って、着いた火を消そうとする。しかし、火は勇次の体の別の所へとどんどん燃え移る。又左が目を細める。
「むむ、これは……」
「な、なんだよ! この火は! 体中にまとわりついてきやがる!」
「それは……『蓑火(みのび)』にゃ!」
「み、蓑火⁉」
「ああ、地域によっては『蓑虫火』などとも呼ばれる怪火にゃ。雨の日に人間が身に着けている蓑や傘にまとわりつく習性がある!」
「蓑とかいつの時代だよ!」
「現代ではシンプルに人間の衣服を燃やそうとしているようだにゃ! そのままだと全身に火が回ってしまうにゃ!」
「勇次!」
「ね、姉ちゃん⁉」
「一美か!」
そこに、金糸雀色のロングヘア―をなびかせたスレンダーな体型の女性が駆け付ける。一美と呼ばれた女性は勇次に問う。
「勇次、大丈夫⁉」
「どうみても大丈夫ではねえよ!」
「又左さん、状況は⁉」
「勇次が蓑火という怪火にまとわりつかれているにゃ!」
「了解! 根絶するわ!」
一美が大きな鎌を構える。勇次が慌てる。
「ちょ、ちょっと待て! どうするつもりだ!」
「その体にまとわりついている火をこの鎌で狩るわ!」
「い、いやどうやって⁉」
「なんかこう……うまいことやって!」
一美が鎌の素振りをしてみせる。勇次が声を上げる。
「きゃ、却下だ! 却下!」
「それなら……隊服を脱ぎなさい! 下着もよ!」
一美が自身も着ている、黒い軍服調の服をつまみながら叫ぶ。
「ええっ⁉」
「隊服ならまた替えが支給されるわ! そのままだと全身が燃えちゃうわよ!」
「いや、なんていうか、裸を見られるのは恥ずいっていうか……」
「何を言っているの! 昔はよく一緒にお風呂に入ったでしょ⁉」
「ガキの頃の話だろ! 今は大人だぞ⁉」
「むしろ、それがいいんじゃない!」
一美が満面の笑みでサムズアップする。
「な、何を言ってんだよ⁉」
「勇次、そこの小川に飛び込むにゃ!」
「おおっ!」
勇次は又左の指示に従い、小川に勢いよく飛び込む。火が消える。
「ふう、良かったにゃ……」
「ち、余計なことを……」
安堵する又左の横で一美が小さく舌打ちする。勇次が別の気配に気付く。
「む!」
そこに大きな蓑虫状の火が現れる。又左が叫ぶ。
「お、恐らく、蓑火の親玉にゃ! 子分が消されて怒っているにゃ!」
「こ、この大きさ……体がすっぽり覆われてしまうわ!」
「くっ……おらあっ!」
勇次が金棒を思い切り振るう。しかし、火は消えない。
「だ、駄目にゃ!」
火がゆっくりと勇次たちに近づいてくる。勇次が声を上げる。
「くそ! どうすれば……」
「勇次、連続攻撃よ!」
「えっ⁉」
「私に続いて!」
一美が鎌を鋭く振るう。勇次も再び金棒を振るう。
「お、おらあっ!」
「このまま、順番に間断なく攻撃するのよ!」
「お、おう!」
「……ほら! 火の勢いがなんとなく弱まってきたような気がするでしょう⁉」
「気がするじゃ駄目なんだよ! って、火が迫ってきた!」
「……何をわーきゃー騒いでいるのだ……」
「‼」
次の瞬間、勇次が目を開くと、白髪のミディアムボブでストレートの髪型をした女性が日本刀を大蓑火に突き立てていた。刀から激しい冷気があふれ、火はたちまち凍り付く。女性が刀を鞘に納めて、ゆっくりと口を開く。
「妖絶士(ようぜつし)たるもの常に冷静沈着を心がけろ、鬼ヶ島勇次(おにがしまゆうじ)、鬼ヶ島一美(おにがしまかずみ)……」
「た、隊長……」
「この上杉山御剣(うえすぎやまみつるぎ)の隊の隊員がそんな調子では困るぞ」
「す、すみません……」
「まあいい、皆無事だな、それでは帰投する!」
御剣と名乗った女性は凛とした声で皆に告げる。
「ふむ……やっぱり睨んだ通りにゃ」
「何が睨んだ通りなんだよ、又左(またざ)」
短い黒髪で痩せ型だがたくましい体付きをした青年が、自分の前をてくてくと歩く、人の言葉を話す不思議な黒猫、又左に尋ねる。
「勇次、気を付けるにゃ」
又左が周囲の山道を見回す。勇次と呼ばれた青年は同様の行為をしてから首を傾げる。
「? 多少雨が強くなってきたけど……足を滑らせるようなヘマはしないぜ」
「そうじゃにゃくて、妖(あやかし)ににゃ」
「妖? いや、妖レーダーにはなんの反応もないぜ?」
勇次は自分の手首を又左に向かって突き出す。そこには腕時計のようなものが巻かれている。又左が説明する。
「その妖が持つ妖力が微弱なものだと、反応しにくいケースもあるにゃ」
「そういうものなのか……微弱ならばわざわざ出動するまでもなくないか? 人に危害を加えるような可能性は低いんだろう?」
「う~ん、にゃんと言えばいいか……」
又左が考え込む。勇次が首を傾げる。
「なんだよ……って、うおっ⁉」
その時、勇次のレーダーが激しく振動を始める。又左が冷静に告げる。
「そのレーダーが反応したということは、人間に対して悪意を持った妖が近くにいるということ……つまり、『根絶対象』ということにゃ」
「『根絶対象』か……」
「そう、我々、妖を絶やす為の組織、妖絶講(ようぜつこう)の出番だというわけにゃ」
「しかし、どこにいるんだ? 姿が見えないぞ」
「油断するにゃよ……」
「それは分かっているけどよ……って、ええっ⁉」
その時、勇次の体の一部がいきなり燃え上がる。又左が声を上げる。
「来たにゃ!」
「くっ! なんだこれは!」
勇次が体をバタつかせたり、手に持った金棒を使って、着いた火を消そうとする。しかし、火は勇次の体の別の所へとどんどん燃え移る。又左が目を細める。
「むむ、これは……」
「な、なんだよ! この火は! 体中にまとわりついてきやがる!」
「それは……『蓑火(みのび)』にゃ!」
「み、蓑火⁉」
「ああ、地域によっては『蓑虫火』などとも呼ばれる怪火にゃ。雨の日に人間が身に着けている蓑や傘にまとわりつく習性がある!」
「蓑とかいつの時代だよ!」
「現代ではシンプルに人間の衣服を燃やそうとしているようだにゃ! そのままだと全身に火が回ってしまうにゃ!」
「勇次!」
「ね、姉ちゃん⁉」
「一美か!」
そこに、金糸雀色のロングヘア―をなびかせたスレンダーな体型の女性が駆け付ける。一美と呼ばれた女性は勇次に問う。
「勇次、大丈夫⁉」
「どうみても大丈夫ではねえよ!」
「又左さん、状況は⁉」
「勇次が蓑火という怪火にまとわりつかれているにゃ!」
「了解! 根絶するわ!」
一美が大きな鎌を構える。勇次が慌てる。
「ちょ、ちょっと待て! どうするつもりだ!」
「その体にまとわりついている火をこの鎌で狩るわ!」
「い、いやどうやって⁉」
「なんかこう……うまいことやって!」
一美が鎌の素振りをしてみせる。勇次が声を上げる。
「きゃ、却下だ! 却下!」
「それなら……隊服を脱ぎなさい! 下着もよ!」
一美が自身も着ている、黒い軍服調の服をつまみながら叫ぶ。
「ええっ⁉」
「隊服ならまた替えが支給されるわ! そのままだと全身が燃えちゃうわよ!」
「いや、なんていうか、裸を見られるのは恥ずいっていうか……」
「何を言っているの! 昔はよく一緒にお風呂に入ったでしょ⁉」
「ガキの頃の話だろ! 今は大人だぞ⁉」
「むしろ、それがいいんじゃない!」
一美が満面の笑みでサムズアップする。
「な、何を言ってんだよ⁉」
「勇次、そこの小川に飛び込むにゃ!」
「おおっ!」
勇次は又左の指示に従い、小川に勢いよく飛び込む。火が消える。
「ふう、良かったにゃ……」
「ち、余計なことを……」
安堵する又左の横で一美が小さく舌打ちする。勇次が別の気配に気付く。
「む!」
そこに大きな蓑虫状の火が現れる。又左が叫ぶ。
「お、恐らく、蓑火の親玉にゃ! 子分が消されて怒っているにゃ!」
「こ、この大きさ……体がすっぽり覆われてしまうわ!」
「くっ……おらあっ!」
勇次が金棒を思い切り振るう。しかし、火は消えない。
「だ、駄目にゃ!」
火がゆっくりと勇次たちに近づいてくる。勇次が声を上げる。
「くそ! どうすれば……」
「勇次、連続攻撃よ!」
「えっ⁉」
「私に続いて!」
一美が鎌を鋭く振るう。勇次も再び金棒を振るう。
「お、おらあっ!」
「このまま、順番に間断なく攻撃するのよ!」
「お、おう!」
「……ほら! 火の勢いがなんとなく弱まってきたような気がするでしょう⁉」
「気がするじゃ駄目なんだよ! って、火が迫ってきた!」
「……何をわーきゃー騒いでいるのだ……」
「‼」
次の瞬間、勇次が目を開くと、白髪のミディアムボブでストレートの髪型をした女性が日本刀を大蓑火に突き立てていた。刀から激しい冷気があふれ、火はたちまち凍り付く。女性が刀を鞘に納めて、ゆっくりと口を開く。
「妖絶士(ようぜつし)たるもの常に冷静沈着を心がけろ、鬼ヶ島勇次(おにがしまゆうじ)、鬼ヶ島一美(おにがしまかずみ)……」
「た、隊長……」
「この上杉山御剣(うえすぎやまみつるぎ)の隊の隊員がそんな調子では困るぞ」
「す、すみません……」
「まあいい、皆無事だな、それでは帰投する!」
御剣と名乗った女性は凛とした声で皆に告げる。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる