上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第26話(1) 泣く子はアタシ、悪い子はウサギさん

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                  拾参

「隊長!」

「愛、来るな!」

「きゃっ⁉」

 愛が御剣のもとに駆け寄ろうとすると、マシンガンの銃弾が降り注ぐ。

「ま、まずは自分の身を守ることを優先しろ……」

「そ、そうは言っても……」

「不意を突かれたのでしょうか……星ノ条管区長が操られているのは厄介ですが、こっちは9人います。数の上では優位です……!」

 神不知火が冷静に現状を分析する。

「ふふっ……」

 加茂上が笑う。神不知火が睨む。

「なにがおかしい?」

「いいえ……」

「ピョーン‼」

「⁉」

 そこに燕尾服を着た、頭にウサギの耳を生やした男が壁を壊して飛び込んでくる。

「おおっ、適当に突っ込んでみたら、これまた妖力と霊力が高そうな連中がうようよ集まっているピョン! 僕と遊んで欲しいピョン!」

「な、なんだ⁉ あのうさ耳男⁉」

「干支妖の一人、卯月(うづき)ですね。先日存在が確認されたという……」

 高松の叫びに神不知火が応える。高松が戸惑う。

「ま、また干支妖か⁉」

「二度目は偶然、三度目は必然……!」

「完全にコントロール出来る方々ではありませんが、ちょっとした誘導を……」

 自身を睨み付ける神不知火に対し、加茂上がわざとらしく両手を広げる。

「……私たちでなんとかしましょう! 伊達仁隊長、高松隊長!」

「ええっ⁉ 俺たちで⁉」

「干支妖か……」

 神不知火の呼びかけに高松は困惑し、茶々子もやや慎重な姿勢を見せる。

「見事討ち取った暁には新たな管区長の座も見えてくるかもしれません……」

「その話乗った!」

「い、いや、俺は別に管区長に興味は……」

 神不知火の呟きに茶々子は俄然闘志を燃やす。高松はなおも戸惑う。

「うん? まずはそっちの三人が遊んでくれるピョン?」

 卯月が神不知火たちの方に向き直る。茶々子が笑みを浮かべながら銃を発砲する。

「へっ、まずは、じゃねえ! アタシがさっさと始末してやんよ!」

「おっと!」

「なっ⁉」

 卯月が高いジャンプ力を活かして、茶々子の銃撃をかわす。

「せっかくの飛び道具も当たらなければ意味が無いピョン♪」

「ちっ……」

「宝の持ち腐れだピョン♪」

「ピョンピョンうるせえんだよ!」

「よっと! ほいっと!」

 茶々子が銃を連射するが、卯月は軽やかなステップでそれらをかわしてみせる。

「くそ! 飛び跳ねやがって! ん⁉ ……ちっ、弾切れか!」

「考えなしに連射するからだピョン……」

「うるせえな! ちょっと待ってろ……」

「うん?」

「……キターーーー‼」

 茶々子が目薬をさして、涙を溢れさせる。高松が驚く。

「ええ⁉ そうやって弾丸を補充するのが⁉」

「こうすりゃ無尽蔵だ! おらおら!」

「闇雲に撃っても当たらないピョン!」

「てめえの体力が尽きるのが先か……」

「む?」

「アタシの涙が枯れはてるのが先か……勝負だ!」

「ち、違うところで張り合ってねが⁉」

 高松の指摘にも構わず、茶々子は銃の連射を続ける。

「おらおらおら!」

「あらよっと! ……さすがに段々飽きてきたピョン……」

「それはちょうど良かった……」

「ん?」

「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……舞』!」

「なっ⁉」

 神不知火が高く舞い上がり、卯月に限りなく接近する。

「ちゃこさんが巧みに誘導して下さったお陰です!」

「……うむ! 狙い通りだ!」

「い、いや、絶対嘘だ⁉」

 腕を組んで頷く茶々子に対し、高松が指を差して突っ込む。

「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……拳』!」

「しまっ……」

「逃がしません!」

 神不知火が空中で素早く印を結ぶと、巨大な拳のようなものが現れ、卯月の体を地面に豪快に叩きつける。卯月がうめき声を上げる。

「うぐう……」

「『臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前……踏』!」

 続いて巨大な足のようなものが現れ、倒れ込んでいた卯月を思い切り踏みつける。

「……!」

 卯月は声にならない様子でうめきながら、自身がめり込んだ穴からなんとか這い出ようとする。それを見て神不知火が感心する。

「まだ、動けますか……どなたか、とどめをお願いします!」

「ええっ⁉ 神不知火副管区長は⁉」

「少しばかり力を消耗し過ぎました……」

「だ、伊達仁隊長! えっ⁉」

「目薬の分量間違えた! 涙が思ったよりもどばどばと出てきちまう……!」

 神不知火は苦しそうな表情を浮かべ、茶々子は余計な涙を拭きとるのに忙しい。

「……ってごどは……」

「高松隊長、お願いします!」

「た、頼むぞ、高松っちゃん!」

「ちっ……仕方がね!」

 高松が叫ぶと、その体全体を包むように桃色の気が充満し、頭部に角が生える。

「……!」」

「泣く子はいねーがー⁉ 悪い子はいねーがー⁉」

 高松は右手に包丁、左手に桶を持って、呼びかける。茶々子が手を上げる。

「泣く子はアタシだな」

「そいだば、悪い子は……」

「あのウサギさんですね」

「分がった! うおおおっ!」

 神不知火の言葉に従い、高松は包丁を振り回しつつ卯月に飛びかかる。卯月はかわす。

「! くっ……はっ! お気に入りの燕尾服がボロボロに! ここは撤退するピョン!」

 卯月は飛んで、自分が入ってきた穴から外に飛び出す。

「逃げたか……ボロボロになった燕尾服のカスは桶で回収して……」

「ええっ⁉ そういう使い方だったのか⁉ 嘘だろ⁉」

「いや、案外大事になってくるかもしれません……とにかく追い払うことが出来ましたね」

 驚く茶々子の近くに降り立った神不知火がほっと安堵のため息をつく。
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