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第二章

第25話(2) さまよえる毒の弾丸とエレキテル

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                  ☆

「ふん、その程度か……」

 里見村の前で山牙が膝をつく。山牙が舌打ちをする。

「ちっ……なんていう槍さばきだよ。アタシが打ち負けるとは……」

「『加茂上四天王』の一角、『技』の里見村をなめてもらっては困るな……」

 里見村が山牙に向かって槍を構える。山牙は顔をしかめる。

「くっ……」

「仁藤正人……お貸し給へ!」

「ふん! なに⁉ 式神⁉」

 里見村の槍が仁藤の式神を貫いた。愛が声を上げる。

「山牙さん! 一旦距離を取って!」

 山牙は指示に従い、やや離れた物陰に隠れる。そこには愛がいた。

「はあ、はあ……アンタさ……」

「え?」

「仁藤を囮に使うの多すぎない?」

「使いやすいんです」

 愛がなんの悪気もなく答える。山牙が困惑する。

「そ、即答……ある意味仁藤が喜ぶかもね」

「それよりもなんで戦っているんですか? 双方の隊長から『陽動に徹せよ。捕捉されたらまずは話し合いを優先』って言われていたでしょう?」

「……アイツの目がケンカ売ってやがったからね」

 山牙の返答に愛がため息をつく。

「はあ……目を離したらこれなんですもの。話し合いには応じてくれないでしょうね……」

「それにしても、アイツの槍だよ。あそこまでの実力者だとは聞いてないよ」

「確かに……加茂上四天王の里見村さんといえばそれなりに名が知れた存在ですが、正直違和感を覚えますね」

「高い霊力の中に妖力を感じる……」

「へえ、見かけによらず、案外鋭いな、パンク姉ちゃん……」

「なっ⁉」

「だ、誰⁉」

 二人の前にヤンキー座りをしたハーフパンツスタイルの隊服姿で右目の眼帯が特徴的な女の子がいつの間にか座っている。

「あ~まあ、落ち着け、アタシは敵じゃねえ、援軍だ」

「援軍?」

 山牙が首を傾げる。

「ああ、アタシは東北管区所属、伊達仁隊隊長の伊達仁茶々子だ。名前は?」

「伊達仁隊隊長! そういえば以前おみかけしたことがある……あっ、曲江愛です!」

 愛が思い出したように頷き、名前を名乗る。山牙が名乗りながら尋ねる。

「山牙恋夏だ……東北管区の奴がなんだってアタシらにつく?」

「ふむ、じゃあ、アンタらの管区長からの伝言だ……『既に交戦は始まっている場合はやむなし! 援軍を送るので、協力の下、相手の撃退に当たれ。なお、詳細は省くが、加茂上晃穂の裏切りと、彼女が用いた術により、加茂上四天王はかなりその能力を増大させている模様。心して戦えとのこと!』……だってよ、分かったか?」

「加茂上管区長の邪魔をする不届きものどもはこの里見村が処理する……」

 里見村がぶつぶつと呟きながらうろついている。覗き込んだ愛が指を差す。

「術……あの後方で浮かんでいる尻尾が力を与えているのですか? どうやら洗脳、あるいは催眠をかけられているようです。加茂上管区長が裏切ったとはいえ、彼らは別……」

「そういうこった。理解が早くて助かるぜ。出来る限りで構わないから大人しくさせろとさ」

 愛の言葉に茶々子は笑って頷く。山牙が苦笑する。

「無茶を言ってくれる……『鼓武』を受けるべきだったか?」

「隊員全員にあの術をかけたら武枝隊長の体力がとても持ちませんよ」

「分かっているよ……アタシらでやるしかないってことか」

「そうだ、ポニテの姉ちゃんが隙を作ってくれ、アタシが里見村の動きを止め、パンクの姉ちゃんがフィニッシュ……よし、それで行こう」

 茶々子がササっと作戦を決めてしまう。山牙が食ってかかる。

「ちょ、ちょっと待て! なんでアンタが仕切るんだよ⁉」

「アタシ隊長、アンタら平の隊員……OK?」

「ぐっ……」

「どこに隠れた! 我が隊長に比べれば精神の未熟な連中だな……」

「……ほら、言われてるぞ」

 里見村の言葉に茶々子が笑う。愛と山牙が動き出す。物陰から飛び出した愛が叫ぶ。

「霊力や神力で感じ取れないんですか⁉ 修練が足りませんね⁉」

「なにをっ⁉」

「『毒眼』……」

 愛に向かって飛び込もうとした里見村の両足を茶々子が射抜く。里見村の顔が歪む。

「ぐうっ⁉」

「死ぬ類じゃないが、体がやや痺れる類の毒の弾丸だ……ほれ、任せたぜ」

「おらあっ!」

「‼ ぐわっ……」

 山牙の鋭い槍を受け、里見村が倒れ込み、尻尾が消える。

「お見事……それじゃあ、お味方と合流すっか……」

 茶々子が歩き出す。色々と言いたいことを飲み込んで山牙と愛も渋々とその後に続く。

                  ☆

「ふん、その程度か……」

 氏家原の前で風坂が膝をつく。風坂が苦い表情を浮かべる。

「くっ……なんという剣速。この私が後れを取るとは……」

「『加茂上四天王』の一角、『知』の氏家原を侮ってもらっては困るな……」

 氏家原が風坂に向かって剣を振りかざす。風坂は顔をしかめる。

「くっ……」

「『一億個の発明! その9! ロングレンジマジックハンド!』」

「はっ! な、何⁉」

 億葉が伸ばしたマジックハンドが風坂の体を掴んで、半ば強引に引き寄せ、氏家原の剣は空を切る。風坂は億葉の隠れていた物陰に転がり込む。

「ふう……助かりましたわ」

「なんのなんの、援護したかったのでありますが、なかなか隙を見い出せず……」

「ええ、『加茂上四天王』の氏家原さん、名前は存じ上げておりましたが、これほどの剣の使い手だとは……」

 風坂は信じられないといった様子で首を静かに左右に振る。

「風坂明秋殿、赤目億葉殿、ご無事だったようですね……」

「⁉」

「そ、そなたたちはどなたでござるか⁉」

 突如姿を現した着物姿の双子の男女に対し、風坂も億葉も警戒心を露にする。

「そ、そんなに警戒しないで下さい。僕らは味方です」

「味方?」

「ええ、私は東北管区所属峰重隊隊長で姉の峰重由衣と……」

「副隊長で弟の峰重史人です」

「み、峰重隊でありますか……」

「お噂はかねがね……しかし、東北管区の方が何故味方ということになるのです?」

 億葉はあっけにとられ、風坂は首を傾げる。由衣は史人に目配せする。

「史人……」

「はい、貴管区の上杉山管区長から伝言です。『既に交戦は始まっている場合はやむなし! 援軍を送るので、協力の下、相手の撃退に当たれ。なお、詳細は省くが、加茂上晃穂の裏切りと、彼女が用いた術により、加茂上四天王はかなりその能力を増大させている模様。心して戦えとのこと!』です」

「加茂上管区長の邪魔をする不届きものどもはこの氏家原が始末する……」

 氏家原がぶつぶつと呟きながらうろついている。覗き込んだ億葉が指を差す。

「術……あの後方で浮かんでいる尻尾が力を与えているのでありますか? 見たところ洗脳あるいは催眠をかけられているようですな」

「その通りです。出来る限りで構わないので大人しくさせろとのことです……」

 由衣の言葉に風坂は腕を組む。

「また難しいことを……これは『鼓武』を受けるべきだったでしょうか?」

「両隊の隊員全員に術をかけたら武枝隊長殿の体力が著しく消耗してしまいます」

「分かっています……我々でなんとかするしかありませんね」

 億葉の言葉に風坂が頷く。由衣が口を開く。

「微力ながら、私たちも手伝います」

「それは助かります」

「では……私が進み出て、弟が援護、出来た隙を風坂殿が突いて下さい」

 由衣が作戦を決めてしまい、億葉たちが戸惑う。

「お、弟さんが援護?」

「時間がありません。さっさといきましょう……」

「わ、分かりました……」

 由衣の迫力に圧され、風坂は頷く。

「どこに隠れた! 我が隊長に比べれば膂力の不全な連中め……臆したか」

「……好き放題言われていますね。それでは!」

 物陰から飛び出した由衣が呟く。

「……お寄り給へ、木曽の女武者よ……」

「なに⁉」

「はあっ!」

 槍を手に由衣が勢いよく氏家原に飛びかかる。虚を突かれた氏家原だったが、なんとかこの攻撃を受け止めてみせる。

「ぐっ⁉ 細身なのに力強い……! しかし、何故だか今は負ける気がしない!」

「それは加茂上さんの術のお陰ですよ……史人、任せました」

 史人が後方で呟く。

「……お寄り給へ、江戸の発明王よ……」

「む⁉」

「『放電』!」

「がっ⁉ で、電気……? 体が……」

「今です!」

「はあっ!」

「‼ ぐわっ……」

 風坂の鋭い剣を受け、氏家原が崩れ落ち、尻尾が消える。

「お見事です……それじゃあ、お味方と合流いたしますか……」

 由衣たちが歩き出す。風坂が黙ってその後に続く。億葉は堪らず叫ぶ。

「い、今のは、ひょっとして、エレキ……ちょ、ちょっとお話を聞かせて下さい~!」
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