97 / 123
第二章
第24話(3) 飾りじゃねえのよ涙はヒャッハー
しおりを挟む
「よくやったな」
下がってきた御盾に御剣が声をかける。
「ふん……まだまだいけるぞ?」
「無理をするな、自らの回復に専念しろ。余裕があったら勇次も頼む」
「わ、分かった……」
「雅さんもお疲れさまでした」
「管区長候補に名前が挙がるだけあるわね。さすがに二人同時に相手は骨が折れたわ……」
「少し休んでいて下さい。次は私が出ます」
御剣が前に進み出る。
「神不知火です。治癒要員をこちらのポイントまで回して下さい。ええ……お願いします」
神不知火が端末で連絡を取る。しゃがんで戦いを眺めていた茶々子が笑う。
「炎で焼かれるとはねえ……」
「屈強な肉体を持った方々を憑依させていましたから、比較的軽い火傷で済みましたね」
神不知火が倒れ込む峰重姉弟を見つめながら呟く。茶々子は伸びをしながら立ち上がる。
「高松っちゃんに加え、峰重姉弟も脱落……これでアタシの管区長就任が近づいたな……」
「……ちゃこさん、なにをおっしゃっているのですか?」
「はっ、すっとぼけても無駄だよ、かみしらさん。加茂上の姉さんが管区長を退くっていう情報はアタシの方でも掴んでいるんだ」
「……それはあくまでも噂です。仮に加茂上管区長が退任されたとしても、副管区長の私が繰り上がりになるだけかと思います」
「なっ⁉ そこは民主的に選挙を行うもんだろう⁉」
「妖絶講に民主主義を求めてられてもね……」
神不知火が肩をすくめる。茶々子が舌打ちをしながら前に進み出る。
「ならばここで、アタシの実力を示してやんよ……」
「伊達仁家の跳ねっ返り娘か……子供の頃からなにかと有名じゃったな。今も子供じゃか」
「年齢上はな。体型なら貴様よりは大きいぞ」
「よ、余計なことは言わんでいい!」
御剣の言葉に御盾が反発する。雅が声をかける。
「御盾ちゃん、怒ると回復が遅れるわよ」
「私が相手だ」
「ははっ、かの上杉山御剣とこうして戦えるとは嬉しいねえ」
「……手合わせの間違いだろう」
「ああ、そういや建前上はそうだったけな……」
茶々子は笑って後頭部を掻く。
「……」
「いっくぜえ!」
「むっ!」
茶々子が拳銃を取り出し、連射する。御剣はそれを難なくかわしてみせる。
「~♪ やるねえ……」
茶々子は口笛を鳴らす。
「ふん……」
「だが、まだだ!」
「‼」
茶々子は再び銃を連射する。御剣はまたもやかわす。
「~♪ そうこなくっちゃ……」
茶々子はどこか嬉しそうに呟く。御剣がため息まじりに口を開く。
「……余裕ぶっていて良いのか?」
「あん?」
「実弾ではなく、ゴム弾ではないか」
「当たると結構痛えぞ?」
「私には当たらん」
「これはこれは、大した自信でいらっしゃる……」
茶々子が額に手を当てて笑う。
「それにその銃……」
「ん?」
「よく知らんが、モデルガンという奴だろう?」
「案外詳しいねえ、それがどうした?」
「そんなおもちゃで私を倒すことは出来んぞ? 遊び相手なら他を当たれ」
「! ああん……?」
茶々子の顔から笑みが消える。
「生憎、それほど暇ではないのだ」
「言ってくれるじゃねえか! アタシ用にチューンアップしたこれが一番しっくりくるんだよ! こいつでこれまで多くの妖を根絶してきたんだ!」
茶々子が銃を振りかざす。
「……そうか」
「そうだよ!」
「確かに射撃の腕は悪くない。ただ……弾を撃ち尽くしただろう?」
「はっ、冷静なことで……」
茶々子は拳銃の回転式弾倉を見せる。弾が空である。御剣が渋い顔つきになる。
「ほらみろ、考えなさすぎだ……」
「ご心配なく! アタシの本番はここからだからよ!」
「⁉」
茶々子が眼帯をめくると、右目から粒状の涙がいくつかこぼれ落ちて、弾倉に入る。茶々子は弾倉を銃に収納する。勇次が驚く。
「涙を拳銃に⁉ まさか……!」
「そのまさかだよ!」
御剣の足元に二発放たれる。勇次が唖然とする。
「な、涙を銃弾に……?」
「驚くのはまだ早えぞ?」
「え? ……ああっ⁉」
勇次が再び驚きの声を上げる。銃弾が当たった地面がわずかだが、溶けていたからである。
「この匂い……毒か」
「ご名答。これがアタシの持つ『毒眼(どくがん)』だ……」
御剣の呟きに茶々子はニヤリと笑う。御剣は続けて呟く。
「涙が弾丸になるならば、ほぼ無尽蔵に撃てるというわけだな」
「そういうことだ! 今はわざと外したが、今度は外さねえ!」
「!」
「おらあっ!」
「はっ!」
「なっ⁉ か、かわしただと⁉」
「……また、わざと外してくれたのか?」
「う、うるせえ!」
「はっ‼」
「ま、またかわされた……? な、何で当たらねえ?」
「……殺意など様々な感情が込められ過ぎだ。お陰で気配を察しやすい……」
「ちいっ……」
「ふむ……」
「⁉ な、なんの真似だ⁉」
茶々子が目を閉じた御剣に対し、声を荒げる。
「……避けるまでもないと判断したまでだ」
「な、舐めプすんじゃねえ!」
茶々子が先程までよりも数段早く、発砲する。
「! 上杉山流奥義、『凍撃(とうげき)』!」
「……ば、馬鹿な、銃弾を斬りやがった……?」
御剣の斬撃を喰らい、茶々子はその場に崩れ落ちる。御剣は片目を開いて呟く。
「……まだまだ甘い」
下がってきた御盾に御剣が声をかける。
「ふん……まだまだいけるぞ?」
「無理をするな、自らの回復に専念しろ。余裕があったら勇次も頼む」
「わ、分かった……」
「雅さんもお疲れさまでした」
「管区長候補に名前が挙がるだけあるわね。さすがに二人同時に相手は骨が折れたわ……」
「少し休んでいて下さい。次は私が出ます」
御剣が前に進み出る。
「神不知火です。治癒要員をこちらのポイントまで回して下さい。ええ……お願いします」
神不知火が端末で連絡を取る。しゃがんで戦いを眺めていた茶々子が笑う。
「炎で焼かれるとはねえ……」
「屈強な肉体を持った方々を憑依させていましたから、比較的軽い火傷で済みましたね」
神不知火が倒れ込む峰重姉弟を見つめながら呟く。茶々子は伸びをしながら立ち上がる。
「高松っちゃんに加え、峰重姉弟も脱落……これでアタシの管区長就任が近づいたな……」
「……ちゃこさん、なにをおっしゃっているのですか?」
「はっ、すっとぼけても無駄だよ、かみしらさん。加茂上の姉さんが管区長を退くっていう情報はアタシの方でも掴んでいるんだ」
「……それはあくまでも噂です。仮に加茂上管区長が退任されたとしても、副管区長の私が繰り上がりになるだけかと思います」
「なっ⁉ そこは民主的に選挙を行うもんだろう⁉」
「妖絶講に民主主義を求めてられてもね……」
神不知火が肩をすくめる。茶々子が舌打ちをしながら前に進み出る。
「ならばここで、アタシの実力を示してやんよ……」
「伊達仁家の跳ねっ返り娘か……子供の頃からなにかと有名じゃったな。今も子供じゃか」
「年齢上はな。体型なら貴様よりは大きいぞ」
「よ、余計なことは言わんでいい!」
御剣の言葉に御盾が反発する。雅が声をかける。
「御盾ちゃん、怒ると回復が遅れるわよ」
「私が相手だ」
「ははっ、かの上杉山御剣とこうして戦えるとは嬉しいねえ」
「……手合わせの間違いだろう」
「ああ、そういや建前上はそうだったけな……」
茶々子は笑って後頭部を掻く。
「……」
「いっくぜえ!」
「むっ!」
茶々子が拳銃を取り出し、連射する。御剣はそれを難なくかわしてみせる。
「~♪ やるねえ……」
茶々子は口笛を鳴らす。
「ふん……」
「だが、まだだ!」
「‼」
茶々子は再び銃を連射する。御剣はまたもやかわす。
「~♪ そうこなくっちゃ……」
茶々子はどこか嬉しそうに呟く。御剣がため息まじりに口を開く。
「……余裕ぶっていて良いのか?」
「あん?」
「実弾ではなく、ゴム弾ではないか」
「当たると結構痛えぞ?」
「私には当たらん」
「これはこれは、大した自信でいらっしゃる……」
茶々子が額に手を当てて笑う。
「それにその銃……」
「ん?」
「よく知らんが、モデルガンという奴だろう?」
「案外詳しいねえ、それがどうした?」
「そんなおもちゃで私を倒すことは出来んぞ? 遊び相手なら他を当たれ」
「! ああん……?」
茶々子の顔から笑みが消える。
「生憎、それほど暇ではないのだ」
「言ってくれるじゃねえか! アタシ用にチューンアップしたこれが一番しっくりくるんだよ! こいつでこれまで多くの妖を根絶してきたんだ!」
茶々子が銃を振りかざす。
「……そうか」
「そうだよ!」
「確かに射撃の腕は悪くない。ただ……弾を撃ち尽くしただろう?」
「はっ、冷静なことで……」
茶々子は拳銃の回転式弾倉を見せる。弾が空である。御剣が渋い顔つきになる。
「ほらみろ、考えなさすぎだ……」
「ご心配なく! アタシの本番はここからだからよ!」
「⁉」
茶々子が眼帯をめくると、右目から粒状の涙がいくつかこぼれ落ちて、弾倉に入る。茶々子は弾倉を銃に収納する。勇次が驚く。
「涙を拳銃に⁉ まさか……!」
「そのまさかだよ!」
御剣の足元に二発放たれる。勇次が唖然とする。
「な、涙を銃弾に……?」
「驚くのはまだ早えぞ?」
「え? ……ああっ⁉」
勇次が再び驚きの声を上げる。銃弾が当たった地面がわずかだが、溶けていたからである。
「この匂い……毒か」
「ご名答。これがアタシの持つ『毒眼(どくがん)』だ……」
御剣の呟きに茶々子はニヤリと笑う。御剣は続けて呟く。
「涙が弾丸になるならば、ほぼ無尽蔵に撃てるというわけだな」
「そういうことだ! 今はわざと外したが、今度は外さねえ!」
「!」
「おらあっ!」
「はっ!」
「なっ⁉ か、かわしただと⁉」
「……また、わざと外してくれたのか?」
「う、うるせえ!」
「はっ‼」
「ま、またかわされた……? な、何で当たらねえ?」
「……殺意など様々な感情が込められ過ぎだ。お陰で気配を察しやすい……」
「ちいっ……」
「ふむ……」
「⁉ な、なんの真似だ⁉」
茶々子が目を閉じた御剣に対し、声を荒げる。
「……避けるまでもないと判断したまでだ」
「な、舐めプすんじゃねえ!」
茶々子が先程までよりも数段早く、発砲する。
「! 上杉山流奥義、『凍撃(とうげき)』!」
「……ば、馬鹿な、銃弾を斬りやがった……?」
御剣の斬撃を喰らい、茶々子はその場に崩れ落ちる。御剣は片目を開いて呟く。
「……まだまだ甘い」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。
アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。
だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。
それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。
しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
職も住処もなくした私が訳ありアパートの管理人にスカウトされました。何やら事情があるようです。
ピヨピヨ
キャラ文芸
男に金をだまし取られた上に捨てられ、職もなくし、アパートも追い出された葵は、冬の繁華街をさまよううちにサラリーマンふうの美形の占い師に声をかけられる。
金もないし取り合わないつもりでいたが、彼のいう事が驚くほど当たる。これは本物と思い見料を払うが……。
実は彼の本業は占い師ではなく不動産屋!?
ぼろぼろの葵が住処と職を見つけ、時に恐怖におびえ、時に癒され街の片隅で逞しく生きていく話です。
白鬼
藤田 秋
キャラ文芸
ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。
普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?
田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!
草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。
少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。
二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。
コメディとシリアスの温度差にご注意を。
他サイト様でも掲載中です。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
【完結】国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
gari
キャラ文芸
☆たくさんの応援、ありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
※ 一話の文字数を1,000~2,000文字程度で区切っているため、話数は多くなっています。
一部、話の繋がりの関係で3,000文字前後の物もあります。
あやかし喫茶の縁結び
佐倉海斗
キャラ文芸
【あやかし喫茶】は不思議な縁を結ぶ。――そんな噂が広がり始めたのは、綻びつつある縁で結ばれた姉弟の再会が物語のような話だったからだろう。九十五歳になった姉、山田美香子は人間。九十年生きた弟、伊織は鬼。同じ両親の元に生まれ、異なる種族となった二人の姉弟は喫茶店にいる。
その組み合わせが珍しかったのか。
いつの間にか【あやかし喫茶店】に行くと不思議な縁が結ばれると噂になっていた。
これは鬼となった伊織と人間のままの美香子が繰り広げる不可思議な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる