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第二章

第24話(3) 飾りじゃねえのよ涙はヒャッハー

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「よくやったな」

 下がってきた御盾に御剣が声をかける。

「ふん……まだまだいけるぞ?」

「無理をするな、自らの回復に専念しろ。余裕があったら勇次も頼む」

「わ、分かった……」

「雅さんもお疲れさまでした」

「管区長候補に名前が挙がるだけあるわね。さすがに二人同時に相手は骨が折れたわ……」

「少し休んでいて下さい。次は私が出ます」

 御剣が前に進み出る。

「神不知火です。治癒要員をこちらのポイントまで回して下さい。ええ……お願いします」

 神不知火が端末で連絡を取る。しゃがんで戦いを眺めていた茶々子が笑う。

「炎で焼かれるとはねえ……」

「屈強な肉体を持った方々を憑依させていましたから、比較的軽い火傷で済みましたね」

 神不知火が倒れ込む峰重姉弟を見つめながら呟く。茶々子は伸びをしながら立ち上がる。

「高松っちゃんに加え、峰重姉弟も脱落……これでアタシの管区長就任が近づいたな……」

「……ちゃこさん、なにをおっしゃっているのですか?」

「はっ、すっとぼけても無駄だよ、かみしらさん。加茂上の姉さんが管区長を退くっていう情報はアタシの方でも掴んでいるんだ」

「……それはあくまでも噂です。仮に加茂上管区長が退任されたとしても、副管区長の私が繰り上がりになるだけかと思います」

「なっ⁉ そこは民主的に選挙を行うもんだろう⁉」

「妖絶講に民主主義を求めてられてもね……」

 神不知火が肩をすくめる。茶々子が舌打ちをしながら前に進み出る。

「ならばここで、アタシの実力を示してやんよ……」

「伊達仁家の跳ねっ返り娘か……子供の頃からなにかと有名じゃったな。今も子供じゃか」

「年齢上はな。体型なら貴様よりは大きいぞ」

「よ、余計なことは言わんでいい!」

 御剣の言葉に御盾が反発する。雅が声をかける。

「御盾ちゃん、怒ると回復が遅れるわよ」

「私が相手だ」

「ははっ、かの上杉山御剣とこうして戦えるとは嬉しいねえ」

「……手合わせの間違いだろう」

「ああ、そういや建前上はそうだったけな……」

 茶々子は笑って後頭部を掻く。

「……」

「いっくぜえ!」

「むっ!」

 茶々子が拳銃を取り出し、連射する。御剣はそれを難なくかわしてみせる。

「~♪ やるねえ……」

 茶々子は口笛を鳴らす。

「ふん……」

「だが、まだだ!」

「‼」

 茶々子は再び銃を連射する。御剣はまたもやかわす。

「~♪ そうこなくっちゃ……」

 茶々子はどこか嬉しそうに呟く。御剣がため息まじりに口を開く。

「……余裕ぶっていて良いのか?」

「あん?」

「実弾ではなく、ゴム弾ではないか」

「当たると結構痛えぞ?」

「私には当たらん」

「これはこれは、大した自信でいらっしゃる……」

 茶々子が額に手を当てて笑う。

「それにその銃……」

「ん?」

「よく知らんが、モデルガンという奴だろう?」

「案外詳しいねえ、それがどうした?」

「そんなおもちゃで私を倒すことは出来んぞ? 遊び相手なら他を当たれ」

「! ああん……?」

 茶々子の顔から笑みが消える。

「生憎、それほど暇ではないのだ」

「言ってくれるじゃねえか! アタシ用にチューンアップしたこれが一番しっくりくるんだよ! こいつでこれまで多くの妖を根絶してきたんだ!」

 茶々子が銃を振りかざす。

「……そうか」

「そうだよ!」

「確かに射撃の腕は悪くない。ただ……弾を撃ち尽くしただろう?」

「はっ、冷静なことで……」

 茶々子は拳銃の回転式弾倉を見せる。弾が空である。御剣が渋い顔つきになる。

「ほらみろ、考えなさすぎだ……」

「ご心配なく! アタシの本番はここからだからよ!」

「⁉」

 茶々子が眼帯をめくると、右目から粒状の涙がいくつかこぼれ落ちて、弾倉に入る。茶々子は弾倉を銃に収納する。勇次が驚く。

「涙を拳銃に⁉ まさか……!」

「そのまさかだよ!」

 御剣の足元に二発放たれる。勇次が唖然とする。

「な、涙を銃弾に……?」

「驚くのはまだ早えぞ?」

「え? ……ああっ⁉」

 勇次が再び驚きの声を上げる。銃弾が当たった地面がわずかだが、溶けていたからである。

「この匂い……毒か」

「ご名答。これがアタシの持つ『毒眼(どくがん)』だ……」

 御剣の呟きに茶々子はニヤリと笑う。御剣は続けて呟く。

「涙が弾丸になるならば、ほぼ無尽蔵に撃てるというわけだな」

「そういうことだ! 今はわざと外したが、今度は外さねえ!」

「!」

「おらあっ!」

「はっ!」

「なっ⁉ か、かわしただと⁉」

「……また、わざと外してくれたのか?」

「う、うるせえ!」

「はっ‼」

「ま、またかわされた……? な、何で当たらねえ?」

「……殺意など様々な感情が込められ過ぎだ。お陰で気配を察しやすい……」

「ちいっ……」

「ふむ……」

「⁉ な、なんの真似だ⁉」

 茶々子が目を閉じた御剣に対し、声を荒げる。

「……避けるまでもないと判断したまでだ」

「な、舐めプすんじゃねえ!」

 茶々子が先程までよりも数段早く、発砲する。

「! 上杉山流奥義、『凍撃(とうげき)』!」

「……ば、馬鹿な、銃弾を斬りやがった……?」

 御剣の斬撃を喰らい、茶々子はその場に崩れ落ちる。御剣は片目を開いて呟く。

「……まだまだ甘い」
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