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第二章
第24話(2) イタコ姉弟の実力
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「この方、やはりしっくりこられます……本日はこの方で参りましょうか」
由衣が槍を軽々と振り回し、御盾たちに切っ先を向ける。雅が御盾に尋ねる。
「さて……どうする?」
「……呼吸を合わせていただければ……」
御盾がゆっくりと起き上がりながら呟く。
「あら? 勝算があるの?」
「此方も管区長を目指しております。ここで負けてはいられません……」
「じゃあ、あの『鼓武』を使っちゃう?」
雅の問いに御盾は首を左右に振る。
「あれは格上や強敵相手に用いる術……多少つまづいたくらいで用いません……」
「ふ~ん、美学があるのね。それは立派なんだけど……」
「勝たなければなんの意味もない……」
「分かっているのなら結構」
御盾の言葉に雅は満足気に頷く。由衣が再び苦笑する。
「ふっ、今度は路傍の小石扱いですか……」
「……!」
史人が一歩前に進み出る。
「史人……」
「度重なる姉さんへの侮辱……もはや許せん!」
「見え透いた挑発よ。姉さんは気にしていないわ。貴方は下がっていて」
「わ、分かった……」
史人が後退する。そのやりとりを見ていた御盾が雅に声をかける。
「……ご覧の通り、勝機は転がっています」
「そのようね」
「此方が仕掛けたら……お願いします」
「了解~♪」
御盾が軍配を縦にして横に振るう。
「『風林火山・風火の構え・熱風』!」
「⁉」
御盾の軍配から激しい炎が噴き出したかと思うと、風に勢いよく乗り、戦場中が熱風に包まれ、由衣はその熱さに思わず顔をしかめる。
「今です!」
「ほいきた♪」
「‼」
熱風が充満するなか、雅が一瞬で史人との距離を詰め、腕を振りかぶる。
「その綺麗なお顔をあまり傷つけたくはないのだけど……!」
「……お寄り給へ、忠義の怪力僧兵よ……」
「なっ⁉」
雅が放った鋭い拳は史人の左頬をとらえたが、なにやら呟き、体を倍以上に膨れ上がらせ、背中に多数の武器を背負った状態になった史人は一歩も動かない。
「ふむ……隙を突いた見事な攻撃でしたが……」
「なんとかの仁王立ちってやつね、ビクともしないわ……」
史人の反応に雅が苦笑を浮かべる。
「うおおい! おばさん! いやおばあさんよ!」
「⁉」
史人が攻撃を受けた様子を見た由衣が雅に対して急に大声を上げ、御盾が驚く。
「お、おばあさんだなんて……永久の十八歳よ?」
「そった茶番はもうどうでもい! アンタ、めごぇ弟になにすてけだんだ⁉」
「い、いや……」
「そごで待っていろ!」
由衣が槍を構えたまま、雅に向かって突っ込んでいく。御盾が苦笑する。
「弟くんをつつけば、なにか起こるかと思ってはいたが、シンプルに激怒か……」
「はああっ!」
「よっと!」
「む!」
由衣の素早い突きをこともなげにかわした雅はあっという間に由衣の懐に入り、左手で槍の柄を掴み、ぼそっと呟く。
「『廻老(かいろう)』……」
「⁉ や、槍が折れた⁉」
「折れたのではなく、寿命がきたのよ……私が早めたのだけど」
「くっ!」
由衣は折れた槍の先端部分を持ち、なおも雅に向き合う。史人が声を上げる。
「姉さん! 管区長相手にそんな武器で戦うのは無謀だ!」
「ぐっ……で、でもどうすれば……」
「これを!」
「! はっ!」
「おっと⁉」
由衣が史人から受け取った金棒を豪快に振るい、雅は後方に飛んでかわす。由衣が叫ぶ。
「こんなものよぐ持ってあったわね!」
「武器コレクションの逸話でも有名な方だったからね……」
史人が背中に背負った多くの武器を指差す。雅が顔をしかめる。
「なるほど……」
「なにがなるほどなのですか⁉」
御盾が雅に問う。
「イタコというのは、代々女がなるものだけど、この弟くんにもイタコの才能があるようね」
「なっ⁉」
「しかも、その才能はお姉さんとほぼ同等。こちらは歴史上の男性の偉人や有名人をその体に憑依させることが出来るってわけね」
「ご名答……」
雅の言葉に史人が頷く。由衣が叫ぶ。
「どだべ! これがわの自慢の弟だ!」
「そんな……姉さんこそ、僕の自慢の姉さんだよ」
「なっ⁉ おめ、いぎなりそった恥ずがすいことをしゃべるな~照れでまる……」
史人の言葉に由衣が顔を真っ赤にして俯く。雅が呆れ気味に呟く。
「茶番は終わった?」
「んなっ⁉」
「お待たせしました。続いての偉人のリクエストですね?」
「それは遠慮するわ」
史人の言葉に雅が首を振る。由衣が首を捻る。
「何が狙いだ?」
「色々な意味でこれ以上長引かせたくはないだけよ」
「そいだば、思い通りに終わらへでける! 史人!」
「ああ!」
由衣が金棒を、史人が薙刀を手に雅に襲いかかる。
「ふん! あらよっと!」
「くっ、こちらの攻撃を簡単に……流石は管区長……」
「怯むな、史人! どごがで隙が出来るはずだ!」
「……そろそろいいかしら?」
攻撃を受け流しながら、雅が御盾に目配せしたことに史人は気付く。
「! しまった! おびき出された!」
「もう遅い! 『風林火山・林の構え・密林』!」
「がっ⁉」
御盾が発生させた密林が由衣と史人を閉じ込める。二人とも思う様に身動きが取れない。
「もう一押し! 『風林火山・火の構え・火炎』!」
「‼」
密林が一瞬で炎に包まれ、由衣と史人が力なく倒れ込む。御盾が息を整えながら呟く。
「そ、その実力……さすがは管区長候補というだけあったわ……」
由衣が槍を軽々と振り回し、御盾たちに切っ先を向ける。雅が御盾に尋ねる。
「さて……どうする?」
「……呼吸を合わせていただければ……」
御盾がゆっくりと起き上がりながら呟く。
「あら? 勝算があるの?」
「此方も管区長を目指しております。ここで負けてはいられません……」
「じゃあ、あの『鼓武』を使っちゃう?」
雅の問いに御盾は首を左右に振る。
「あれは格上や強敵相手に用いる術……多少つまづいたくらいで用いません……」
「ふ~ん、美学があるのね。それは立派なんだけど……」
「勝たなければなんの意味もない……」
「分かっているのなら結構」
御盾の言葉に雅は満足気に頷く。由衣が再び苦笑する。
「ふっ、今度は路傍の小石扱いですか……」
「……!」
史人が一歩前に進み出る。
「史人……」
「度重なる姉さんへの侮辱……もはや許せん!」
「見え透いた挑発よ。姉さんは気にしていないわ。貴方は下がっていて」
「わ、分かった……」
史人が後退する。そのやりとりを見ていた御盾が雅に声をかける。
「……ご覧の通り、勝機は転がっています」
「そのようね」
「此方が仕掛けたら……お願いします」
「了解~♪」
御盾が軍配を縦にして横に振るう。
「『風林火山・風火の構え・熱風』!」
「⁉」
御盾の軍配から激しい炎が噴き出したかと思うと、風に勢いよく乗り、戦場中が熱風に包まれ、由衣はその熱さに思わず顔をしかめる。
「今です!」
「ほいきた♪」
「‼」
熱風が充満するなか、雅が一瞬で史人との距離を詰め、腕を振りかぶる。
「その綺麗なお顔をあまり傷つけたくはないのだけど……!」
「……お寄り給へ、忠義の怪力僧兵よ……」
「なっ⁉」
雅が放った鋭い拳は史人の左頬をとらえたが、なにやら呟き、体を倍以上に膨れ上がらせ、背中に多数の武器を背負った状態になった史人は一歩も動かない。
「ふむ……隙を突いた見事な攻撃でしたが……」
「なんとかの仁王立ちってやつね、ビクともしないわ……」
史人の反応に雅が苦笑を浮かべる。
「うおおい! おばさん! いやおばあさんよ!」
「⁉」
史人が攻撃を受けた様子を見た由衣が雅に対して急に大声を上げ、御盾が驚く。
「お、おばあさんだなんて……永久の十八歳よ?」
「そった茶番はもうどうでもい! アンタ、めごぇ弟になにすてけだんだ⁉」
「い、いや……」
「そごで待っていろ!」
由衣が槍を構えたまま、雅に向かって突っ込んでいく。御盾が苦笑する。
「弟くんをつつけば、なにか起こるかと思ってはいたが、シンプルに激怒か……」
「はああっ!」
「よっと!」
「む!」
由衣の素早い突きをこともなげにかわした雅はあっという間に由衣の懐に入り、左手で槍の柄を掴み、ぼそっと呟く。
「『廻老(かいろう)』……」
「⁉ や、槍が折れた⁉」
「折れたのではなく、寿命がきたのよ……私が早めたのだけど」
「くっ!」
由衣は折れた槍の先端部分を持ち、なおも雅に向き合う。史人が声を上げる。
「姉さん! 管区長相手にそんな武器で戦うのは無謀だ!」
「ぐっ……で、でもどうすれば……」
「これを!」
「! はっ!」
「おっと⁉」
由衣が史人から受け取った金棒を豪快に振るい、雅は後方に飛んでかわす。由衣が叫ぶ。
「こんなものよぐ持ってあったわね!」
「武器コレクションの逸話でも有名な方だったからね……」
史人が背中に背負った多くの武器を指差す。雅が顔をしかめる。
「なるほど……」
「なにがなるほどなのですか⁉」
御盾が雅に問う。
「イタコというのは、代々女がなるものだけど、この弟くんにもイタコの才能があるようね」
「なっ⁉」
「しかも、その才能はお姉さんとほぼ同等。こちらは歴史上の男性の偉人や有名人をその体に憑依させることが出来るってわけね」
「ご名答……」
雅の言葉に史人が頷く。由衣が叫ぶ。
「どだべ! これがわの自慢の弟だ!」
「そんな……姉さんこそ、僕の自慢の姉さんだよ」
「なっ⁉ おめ、いぎなりそった恥ずがすいことをしゃべるな~照れでまる……」
史人の言葉に由衣が顔を真っ赤にして俯く。雅が呆れ気味に呟く。
「茶番は終わった?」
「んなっ⁉」
「お待たせしました。続いての偉人のリクエストですね?」
「それは遠慮するわ」
史人の言葉に雅が首を振る。由衣が首を捻る。
「何が狙いだ?」
「色々な意味でこれ以上長引かせたくはないだけよ」
「そいだば、思い通りに終わらへでける! 史人!」
「ああ!」
由衣が金棒を、史人が薙刀を手に雅に襲いかかる。
「ふん! あらよっと!」
「くっ、こちらの攻撃を簡単に……流石は管区長……」
「怯むな、史人! どごがで隙が出来るはずだ!」
「……そろそろいいかしら?」
攻撃を受け流しながら、雅が御盾に目配せしたことに史人は気付く。
「! しまった! おびき出された!」
「もう遅い! 『風林火山・林の構え・密林』!」
「がっ⁉」
御盾が発生させた密林が由衣と史人を閉じ込める。二人とも思う様に身動きが取れない。
「もう一押し! 『風林火山・火の構え・火炎』!」
「‼」
密林が一瞬で炎に包まれ、由衣と史人が力なく倒れ込む。御盾が息を整えながら呟く。
「そ、その実力……さすがは管区長候補というだけあったわ……」
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